Indiebase編集部です。
豪華な白いドレスを着た老婆が、椅子に座って鏡を見つめています。その隣には、同じく年老いた女性が寄り添っています。
二人の顔は骸骨のように痩せこけていますが、華やかな衣装や宝石で着飾り、まるで若い貴婦人のように振る舞っています。
しかし、その背後には大きな翼を広げ、箒を振り上げる不気味な老人が立っています。
スペインの画家フランシスコ・デ・ゴヤが描いた『老女たち』(1810年頃、リール美術館所蔵)は、老いと美貌への執着、そして避けられない死を風刺した作品です。
「まだ美しい?」と問いかける老婆
左側の女性が手にしている鏡には、スペイン語で「¿Qué tal?(どう?)」と書かれています。
これは、自分の姿を確かめながら「まだ美しいかしら?」と問いかけているようにも解釈できます。
中央の老婆は、白いドレスに宝石のイヤリング、髪飾りを身につけています。
しかし、その顔には深いしわが刻まれ、目は落ちくぼみ、若さの面影はほとんどありません。
ゴヤは、華やかな装いと老いた肉体を対比させることで、失われた美貌にしがみつく人間の姿を皮肉たっぷりに描きました。
背後に迫る「時」の化身

二人の背後に立つ翼のある老人は、時間の経過を象徴する「時の翁」と解釈されています。
ギリシャ神話のクロノスと結びつけられることもある存在で、老いと死が誰にも避けられないことを示しています。
老人が振り上げているのは、大きな箒です。
まるで二人の老婆を掃き払おうとしているかのような姿は、どれほど美しく着飾っても、時間の流れから逃れることはできないという皮肉を感じさせます。
この作品には『時』という別の題名もあります。
ゴヤが描いた老いと死の風刺
ゴヤは宮廷画家として活躍する一方、人間の愚かさや迷信、社会の矛盾を鋭く描いた画家でもありました。
1799年に発表した版画集『ロス・カプリチョス』では、虚栄心や欲望に支配される人々を、怪物や魔女とともに風刺しています。
『老女たち』にも、そうしたゴヤ特有の不気味なユーモアが表れています。
華やかなドレスと宝石、鏡に映る自分の姿、そして背後から迫る時間の化身。
鏡に書かれた「どう?」という問いに、背後の老人は箒を振り上げて答えようとしているかのようです。
