Indiebase編集部です。
夕焼けに染まる空を背に、筋肉質な青年が膝を抱えて座っています。鋭い目つきとたくましい肉体を持ちながら、その表情はどこか寂しげ。周囲には宝石のような花々が咲き、現実とは思えない風景が広がっています。
ロシアの画家ミハイル・ヴルーベリが1890年に描いた『座るデーモン』。恐ろしい悪魔ではなく、孤独と悲しみを抱えた存在としてデーモンを描いた、ロシア象徴主義を代表する作品です。
デーモンは、天国から追放された孤独な存在だった
この作品の着想源となったのは、ロシアの詩人ミハイル・レールモントフの長編詩『デーモン』です。
物語の主人公は、天から追放され、地上をさまよう堕天使。永遠の孤独に苦しむ彼は、ジョージアの王女タマーラに恋をします。
しかし、デーモンの愛は悲劇を招きます。彼の口づけによってタマーラは命を落とし、その魂は天使によって救われます。デーモンは再び、孤独な存在として取り残されるのです。
ヴルーベリが描いたのは、そんなデーモンの苦悩を思わせる姿でした。力強い肉体とは対照的に、表情には悲しみが漂っています。
悪魔ではなく「苦しみ、悲しむ精神」
ヴルーベリは、自身が描くデーモンについて、一般的な悪魔とは異なる存在だと説明しています。
彼にとってデーモンとは、邪悪な怪物ではなく、苦しみ、悲しみながらも威厳を持つ精神的な存在でした。
絵の中のデーモンは、巨大な体を窮屈そうに折り曲げ、膝を抱えています。画面の左右には体が収まりきらず、閉じ込められているようにも見えます。
また、背景の花や岩は、細かな色面を組み合わせた独特の筆遣いで描かれています。まるで宝石やモザイクのような表現は、ヴルーベリの作品を特徴づけるものです。

画家は生涯、デーモンを描き続けた
ヴルーベリにとって、デーモンは一度描いて終わる題材ではありませんでした。
1899年には『飛翔するデーモン』、1902年には『打ち倒されたデーモン』を制作。特に後者では、地面に倒れたデーモンの姿を描いています。


『打ち倒されたデーモン』の制作時期、ヴルーベリは精神的な不調に見舞われ、1902年には入院することになりました。ただし、病気と作品の内容を直接結びつけることには慎重さが必要です。
『座るデーモン』は現在、モスクワのトレチャコフ美術館に所蔵されています。
(文:Indiebase編集部)
