Indiebase編集部です。
オレンジ、黄色、青、緑。無数の小さな色の粒が集まり、巨大な山のような形を作り出しています。
頂上には太陽が輝き、左下には小さな門が見えます。
スイス生まれの画家パウル・クレーが描いた『パルナッソスへ』(1932年、ベルン美術館所蔵)。
一見すると抽象画ですが、この絵には音楽を絵画に変えるという試みが隠されています。
実はヴァイオリニストだった画家
クレーは幼い頃からヴァイオリンを学び、若い頃にはオーケストラでも演奏していました。
彼にとって、音楽と絵画は切り離せない存在でした。
『パルナッソスへ』では、小さな色面が重なり合い、一つの大きな構造を生み出しています。
これは、異なる旋律が同時に響き合う「ポリフォニー(多声音楽)」にも通じる表現です。
一つひとつの色が音符となり、画面全体で音楽を奏でている。
そんな見方ができる作品です。
題名に隠された音楽の秘密
「パルナッソス」とは、ギリシャ神話で芸術の神アポロンや女神ムーサたちと結びつく聖なる山です。
しかし、この題名にはもう一つの意味があります。
18世紀の作曲家フックスが著した『グラドゥス・アド・パルナッスム』は、対位法を学ぶための有名な音楽教則本でした。
その題名は「パルナッソスへの階梯」を意味します。
つまり、この絵には芸術の頂点を目指すという意味も込められているのです。

ナチス台頭の前年に生まれた傑作
1932年、クレーはドイツのデュッセルドルフ美術アカデミーで教えていました。
しかし翌1933年、ナチスが政権を握ると教職を追われ、スイスへ移ります。
『パルナッソスへ』は、その激動の直前に生まれた作品でした。
近づけば無数の色の粒。離れれば、一つの壮大な山。
音楽が無数の音から一つの曲を生み出すように、クレーは色彩だけで壮大な世界を描いたのです。
(文:Indiebase編集部)
