
Indiebase編集部です。
机に顔を伏せて眠る男性。その背後には、無数のフクロウやコウモリが集まっています。大きく翼を広げる鳥、暗闇からこちらを見つめる奇妙な生き物。足元には、鋭い目をしたヤマネコのような動物まで潜んでいます。
スペインの画家フランシスコ・デ・ゴヤが1799年に発表した『理性の眠りは怪物を生む』。人間の迷信や愚かさを風刺した版画集『ロス・カプリチョス』の第43番にあたる作品です。
「理性が眠ると、怪物が生まれる」
机の正面には、スペイン語で「El sueño de la razón produce monstruos」と書かれています。
日本語では「理性の眠りは怪物を生む」と訳される、有名な言葉です。
この作品で眠っている男性は、ゴヤ自身を表していると考えられています。理性が働かなくなると、迷信や無知、恐怖が怪物のように現れる。そんな警告が込められた作品として知られています。
ただし、ゴヤが伝えようとしたのは、単に理性だけを重視する考え方ではありません。
作品に関連するゴヤの説明には、理性に見捨てられた空想は不可能な怪物を生み出す一方、理性と結びついた空想は芸術を生み出す、という趣旨の言葉が残されています。
つまり、想像力そのものが悪いのではなく、理性を失った想像力が危険だというのです。
フクロウは知恵の象徴ではなかった?
フクロウといえば、現代では知恵の象徴として知られています。しかし、この絵に登場するフクロウたちは、決して賢そうには見えません。
当時のヨーロッパでは、フクロウやコウモリは夜、迷信、無知などと結びつけられることがありました。
画面中央のフクロウは、眠る男性に筆記具のようなものを差し出しています。まるで、眠っている間も何かを描くよう促しているかのようです。
周囲に群がる生き物たちは、夢の中から現れた怪物なのか。それとも、理性を失った人間の心に潜む恐怖なのか。ゴヤは、その答えを一つに限定していません。

全80点の版画集は、発売直後に販売を中止した
『理性の眠りは怪物を生む』が収録された『ロス・カプリチョス』は、1799年に発表された全80点の版画集です。
作品には、迷信に惑わされる人々、偽善的な聖職者、腐敗した社会、愚かな人間たちが、奇怪な姿で登場します。
ゴヤはこの版画集を販売しましたが、ほどなく販売を中止しました。その理由については諸説あり、権力者や宗教関係者への風刺が問題視されることを恐れたとも考えられています。
『理性の眠りは怪物を生む』は、ゴヤの代表作のひとつとして、現在も世界各地の美術館に所蔵されています。
(文:Indiebase編集部)
