Indiebase編集部です。
人間の女性の顔を持つ豹が、槍を手にした青年に頬を寄せています。豹は目を閉じ、まるで恋人のように身体をすり寄せていますが、青年の表情はどこか硬く、奇妙な緊張感が漂っています。
ベルギーの画家フェルナン・クノップフが1896年に描いた『愛撫』。一見すると不思議な恋人同士のようですが、この絵にはギリシャ神話に登場する怪物スフィンクスの物語が隠されています。
怪物の問いに答えられなければ、命を奪われる
スフィンクスといえばエジプトの巨大な石像が有名ですが、ギリシャ神話では女性の顔と獣の身体を持つ怪物として登場します。
テーバイの街を苦しめていたスフィンクスは、旅人に謎を出し、答えられない者を殺していました。
「朝は4本足、昼は2本足、夜は3本足で歩くものは何か?」
この問いに正しく答えたのが、青年オイディプスです。答えは「人間」。赤ん坊は四つん這いで歩き、大人になると2本足で歩き、老人になると杖を使うことを意味しています。
謎を解かれたスフィンクスは、自ら命を絶ったと伝えられています。
なぜ怪物は、青年を愛撫しているのか?
ところが、クノップフの絵には謎解きも戦いも描かれていません。
スフィンクスはオイディプスに頬を寄せ、まるで恋人のように振る舞っています。一方の青年は、怪物を抱きしめることも、突き放すこともしていません。
この姿は、誘惑と危険が隣り合わせにあることを表しているとも解釈されています。
神話では敵同士だった2人を、クノップフは親密でありながら不穏な関係として描いたのです。

美しい怪物に魅せられた象徴主義の画家
クノップフは19世紀末のベルギーを代表する象徴主義の画家です。夢や神話、謎めいた女性像を好んで描きました。
『愛撫』には『スフィンクス』という別題もあり、1896年に制作されました。現在はベルギー王立美術館に所蔵されています。
ちなみに、オイディプスはスフィンクスを退けた後、知らずに実の父を殺し、実の母と結婚するという悲劇的な運命をたどります。
怪物の謎を解いた英雄にも、逃れられない運命が待っていたのです。
(文:Indiebase編集部)
