Indiebase編集部です。
薄暗い建物の中で、奇妙な円錐形の帽子をかぶった人々が座っています。
その周囲を取り囲むのは、聖職者や役人、そして大勢の見物人。
スペインの画家フランシスコ・デ・ゴヤが描いた『異端審問の法廷』(1812〜1819年頃、王立サン・フェルナンド美術アカデミー所蔵)。
一見すると、奇妙な儀式のようにも見えます。
しかし、描かれているのは、宗教的な罪を問われた人々が裁かれる恐ろしい法廷です。
なぜ、罪人は奇妙な帽子をかぶっているのか
画面中央の人々がかぶっているのは、「コロサ」と呼ばれる円錐形の帽子です。
スペインの異端審問では、罪を告発された人々に、このような帽子や「サンベニート」と呼ばれる衣装を着せることがありました。
そこには罪を示す絵や文字が描かれ、人々の前で恥をかかせる役割もありました。
彼らは聖職者や群衆に囲まれ、公開の場で裁きを受けています。
異端審問は、罪を裁くだけでなく、人々に恐怖を植えつける仕組みでもあったのです。
ゴヤが描いた、宗教と権力の恐怖
スペインの異端審問は、15世紀末に設立されました。
カトリックの信仰を守るという名目で、異端とされた人々を取り締まり、時には拷問や処刑も行われました。
ゴヤが生きた時代にも、この制度は存続していました。

画面の奥には権威を示す聖職者たちが並び、手前にはうなだれた被告たちが座っています。
そこに英雄的な人物は登場しません。
あるのは、裁く側の圧倒的な権力と、裁かれる側の無力さです。
恐怖を描き続けた画家
ゴヤは晩年、人間の残酷さや迷信、権力の横暴を繰り返し描きました。
『異端審問の法廷』も、そうした作品の一つです。
画面には大勢の人々が集まっていますが、被告たちを助けようとする者はいません。
むしろ裁判そのものが、一種の見世物になっています。
ゴヤは、異端審問を荘厳な宗教儀式としてではなく、人間が人間を追い詰める光景として描きました。
本当に恐ろしいのは、奇妙な帽子をかぶった罪人たちではありません。
その姿を当然のように見つめている、周囲の人々なのかもしれません。
(文:Indiebase編集部)
