Indiebase編集部です。
大きな鎌を担いだ死神が、背後から老人に忍び寄っています。
老人は薪の束にしがみつき、必死に抵抗しています。死神はすでに老人の肩に手をかけ、今にも連れ去ろうとしているところです。
フランスの画家ジャン=フランソワ・ミレーが描いた『死と木こり』(1858〜1859年、デンマークのニイ・カールスベルグ・グリプトテク美術館所蔵)。
『落穂拾い』や『晩鐘』で農民の暮らしを描いたミレーですが、この作品では、死を呼び寄せてしまった貧しい木こりを主人公にしています。
死にたいと願った老人の結末
この作品の題材は、17世紀フランスの詩人ラ・フォンテーヌの寓話『死と木こり』です。
ある日、貧しい老人が重い薪を背負い、疲れ果てて道端に座り込みました。
長年の労働、貧困、家族を養う苦労。老人は自分の人生を嘆き、ついに「死」を呼びます。
すると、本当に死神が現れました。
死神が何の用かと尋ねると、老人は慌てて答えます。
「この薪を背負うのを手伝ってほしい」
死を望んだはずの老人は、いざ死神を目の前にすると、生きることを選んだのです。
ミレーが描いたのは死神への抵抗

寓話では、老人と死神のやり取りに皮肉なユーモアがあります。
しかし、ミレーはその場面を恐ろしい光景に変えました。
死神は白い布をまとった人間のような姿で、顔は見えません。
老人は地面に膝をつき、薪の束から離れまいとしています。
重荷だったはずの薪が、今度は死神に抵抗するための支えになっているのです。
苦しみの原因だった労働にしがみついてでも、老人は生きようとしています。
1859年のサロンで落選した作品
ミレーは農民や労働者を描き続けた画家ですが、その作品は当時から高く評価されていたわけではありません。
『死と木こり』も1859年のサロンに出品されたものの、審査で落選しました。
その後、1867年のパリ万国博覧会で展示されています。
寓話に登場する死神を描きながら、ミレーが強調したのは貧しい労働者の現実でした。
老人の人生を苦しめてきた薪の束は、死神が現れても手放せないものになっています。
死ぬほどつらい生活でも、死そのものは望んでいない。 ミレーは、その矛盾を老人の必死な姿で描きました。
(文:Indiebase編集部)
