Indiebase編集部です。
「自分は何のために生きているのか」「人生には最初から決められた意味があるのか」。
誰もが一度は考えたことのある、こうした問いに向き合った哲学が「実存主義(Existentialism)」です。
実存主義は、19世紀の哲学者キルケゴールなどを思想的な源流とし、20世紀にはジャン=ポール・サルトルを中心に広く知られるようになりました。
その中心にあるのは、人間の生き方や人生の意味は、あらかじめ決められているわけではないという考え方です。
今回は、実存主義の意味や基本的な考え方、代表的な哲学者、日常生活での具体例まで、初心者にもわかりやすく解説します。
実存主義とは?簡単にいうとどんな哲学?
実存主義とは、人間一人ひとりの存在や自由、選択、責任を重視する哲学的な思想です。
特にサルトルの実存主義では、人間には生まれながらに決められた目的や本質があるわけではなく、自分自身の選択や行動によって生き方を形づくっていくと考えます。
例えば、「人間は何のために生きるのか」という問いに対して、実存主義は万人に共通する答えを与えようとはしません。
むしろ、自分がどのように生きるのかを、自分自身で選び取ることを重視します。
ただし、実存主義は一人の哲学者が作り上げた統一的な理論ではありません。キルケゴール、ハイデガー、サルトルなど、それぞれの思想には大きな違いがあります。
「実存は本質に先立つ」とは?
実存主義を理解するうえで重要なのが、サルトルの有名な言葉「実存は本質に先立つ」です。
一見すると難しい表現ですが、身近な道具を例にすると理解しやすくなります。
例えば、ハサミは紙や布などを切るために作られます。
つまり、ハサミには「ものを切る」という目的があり、その目的に合わせて作られています。
ところが、サルトルは人間については事情が異なると考えました。
人間は、あらかじめ決められた目的を実現するために生まれてくるわけではありません。
まず世界に存在し、その後の選択や行動によって、自分がどのような人間になるのかを形づくっていくのです。
これが「実存は本質に先立つ」という考え方です。
実存主義が重視する3つの考え方
実存主義、とりわけサルトルの思想を理解するうえでは、次の3つが重要です。
1. 自由
人間は、自分の生き方を選択する自由を持っています。
他人や社会の価値観に従うだけでなく、自分自身で人生の方向を決めることができます。
2. 責任
自由には責任が伴います。
自分で選択できるということは、その選択の結果についても引き受けなければならないということです。
3. 不安
自由に選択できるからこそ、人間は不安を感じます。
何が正しいのか、どの道を選ぶべきなのか。絶対的な答えが存在しない状況で決断することは、必ずしも楽しい経験ではありません。
実存主義は、こうした不安から目を背けず、人間が自分自身の生き方に向き合うことを重視します。
実存主義を代表する哲学者
実存主義は、19世紀から20世紀にかけて発展しました。
ここでは、その思想を理解するうえで重要な4人を紹介します。
セーレン・キルケゴール(1813〜1855年)

デンマークの哲学者キルケゴールは、実存主義の先駆者として知られています。
当時の哲学が普遍的な理性や体系を重視するなか、キルケゴールは、一人の人間がどのように生きるのかという問題に注目しました。
彼が重視したのは、客観的な知識だけでは解決できない、個人の主体的な決断です。
また、キリスト教信仰を中心に、人間の不安や絶望について深く考察しました。
代表作には『あれか、これか』『死に至る病』などがあります。
マルティン・ハイデガー(1889〜1976年)

ドイツの哲学者ハイデガーは、1927年に主著『存在と時間』を発表しました。
彼は、人間が自分の存在をどのように理解しているのかという問題を追究しました。
特に重要なのが、人間は自分がいつか死ぬ存在であることを自覚することで、自分自身の生き方と向き合うようになるという考え方です。
ハイデガー自身は実存主義者という分類を受け入れていませんでしたが、その思想は後の実存主義に大きな影響を与えました。
ジャン=ポール・サルトル(1905〜1980年)

フランスの哲学者サルトルは、20世紀の実存主義を代表する人物です。
「実存は本質に先立つ」という言葉で知られ、人間の自由と責任を強調しました。
サルトルによれば、人間は自分自身の選択から逃れることができません。
何かを選ばないという態度も、一つの選択だからです。
彼はこの考え方を「人間は自由の刑に処せられている」という印象的な言葉で表現しました。
代表作には『存在と無』『嘔吐』などがあります。
アルベール・カミュ(1913〜1960年)

フランスの作家・思想家カミュは、実存主義と深い関係を持つ人物です。
ただし、カミュ自身は実存主義者と呼ばれることを拒否していました。
彼の思想の中心にあるのは「不条理」です。
人間は人生に意味や秩序を求めます。しかし、世界は必ずしもその期待に応えてくれません。
カミュは、この人間の願望と世界の沈黙との対立を不条理と呼びました。
代表作『シーシュポスの神話』では、永遠に岩を山頂へ押し上げ続けるギリシャ神話の人物を通して、不条理な世界を生きる人間の姿を考察しています。
小説『異邦人』『ペスト』も広く知られています。
実存主義の具体例|日常生活ではどう考える?
実存主義は、哲学書のなかだけに存在する難しい思想ではありません。
進路、仕事、人間関係など、私たちの日常生活にも関係しています。
具体例1:将来の仕事を選ぶ
例えば、大学卒業後の進路を考えている人がいるとします。
家族は安定した企業への就職を望んでいますが、本人は芸術家になりたいと考えています。
どちらを選ぶべきか、誰も絶対的な正解を教えることはできません。
サルトルの実存主義では、こうした状況で自分自身が選択し、その結果を引き受けることが重要になります。
もちろん、自由とは社会的な制約が存在しないという意味ではありません。
経済状況や家庭環境などの条件があるなかで、それでも自分がどう行動するのかを考えるのです。
具体例2:周囲の期待に合わせて生きる
「親が望んでいるから」「みんながそうしているから」という理由だけで、自分の人生を決めてしまうことがあります。
サルトルは、人間が自分の自由や責任を認めず、自分を固定された役割に押し込める態度を「自己欺瞞(悪い信仰)」として論じました。
例えば、「自分は会社員だから、ほかの生き方などできない」と考えることです。
現実には転職や独立が簡単ではない場合もありますが、自分を一つの役割だけで定義してしまうことには問題があります。
実存主義は、社会的な役割と自分自身の存在を同一視することに疑問を投げかけます。
具体例3:人生の意味がわからなくなったとき
「毎日働いているけれど、何のために生きているのかわからない」
こうした悩みも、実存主義が扱う重要なテーマです。
サルトルの立場では、人生の意味が最初から決まっていないことは、必ずしも絶望を意味しません。
むしろ、自分自身の行動を通して生き方を形づくる可能性があるということです。
ただし、実存主義は単純に「好きなことをすればよい」と主張する思想ではありません。
自由であることの重さや、選択に伴う責任まで考える点に特徴があります。
実存主義とニヒリズムの違い
実存主義と混同されやすい思想に「ニヒリズム(虚無主義)」があります。
ニヒリズムとは、一般に、人生や世界に絶対的な意味・価値・目的が存在するという考えを否定したり、疑ったりする立場です。
一方、サルトルの実存主義は、人生にあらかじめ決められた意味が存在しないとしても、人間は自分自身の選択によって生き方を形づくると考えます。
例えば、「人生には最初から決められた意味がない」という認識は、両者に共通する場合があります。
しかし、そこから何を考えるかが異なります。
実存主義では、意味があらかじめ与えられていないからこそ、自分がどう生きるのかという問題が重要になるのです。
なお、ニヒリズムにもさまざまな立場があり、すべてが「何をしても無意味」という単純な考え方ではありません。
実存主義は現代社会にも関係している
実存主義が広く注目されたのは20世紀ですが、その問題意識は現代社会にも通じています。
現代では、仕事や結婚、家族のあり方などについて、以前より多様な選択肢が存在します。
一方で、選択肢が多いことは、必ずしも生きやすさにつながるとは限りません。
自分は何を選ぶべきなのか。周囲の期待に従うべきなのか。自分の人生にどのような意味を見いだすのか。
こうした問いは、実存主義の中心的な問題と重なっています。
また、実存主義の思想は文学にも大きな影響を与えました。
サルトルの『嘔吐』やカミュの『異邦人』などは、人間の存在や自由、不条理を物語として描いた作品です。
哲学書を読むのが難しいと感じる人は、こうした小説から実存主義に関連する問題に触れてみるのもよいでしょう。
実存主義についてよくある質問
実存主義を簡単に一言でいうと?
人間にはあらかじめ決められた生き方があるわけではなく、自分自身の選択や行動を通して人生を形づくっていくという考え方です。特にサルトルの実存主義を説明する際に重要な特徴です。
実存主義を提唱したのは誰?
実存主義の先駆者として知られるのは、19世紀の哲学者キルケゴールです。その後、ハイデガーなどの思想を経て、20世紀にはサルトルが実存主義を広く知らしめました。
実存主義とニヒリズムは同じ?
同じではありません。ニヒリズムは絶対的な意味や価値の存在を疑う思想ですが、サルトルの実存主義は、意味があらかじめ決められていない世界で、人間がどのように選択し、生きるのかを重視します。
実存主義を学ぶには何を読めばいい?
実存主義に興味を持った人には、サルトルの小説『嘔吐』がおすすめです。主人公ロカンタンが日常のなかで感じる奇妙な違和感を通して、人間の存在や世界の意味について考えさせられる作品です。
もう一冊おすすめしたいのが、カミュの『異邦人』です。母親の葬儀で涙を流さなかった主人公ムルソーが、ある殺人事件を起こし、裁判にかけられる物語です。社会の常識や道徳観と個人のあり方を通して、カミュが追究した「不条理」という問題を描いています。
どちらも20世紀フランス文学を代表する作品であり、哲学的な問いを小説として味わうことができます。
実存主義が問いかける「自分はどう生きるのか」
実存主義は、人生の正解を教えてくれる哲学ではありません。
むしろ、誰かが決めた正解に従うのではなく、自分自身がどのように生きるのかを考える思想です。
サルトルが強調したのは、人間は自由であると同時に、自分の選択に責任を負う存在だということでした。
「自分は何のために生きているのか」という問いに、最初から用意された答えはありません。
その問いにどう向き合い、何を選ぶのか。実存主義は、そこに人間の自由と責任を見いだしました。
実存主義をもっと知りたい人におすすめの2冊
『嘔吐』ジャン=ポール・サルトル

実存主義を代表する哲学者サルトルの長編小説。主人公ロカンタンが、身近な物事の存在そのものに違和感を覚えるようになる過程を描きます。サルトルの思想に文学を通して触れたい人におすすめです。
▶ Amazon(Kindle)で読む
『異邦人』アルベール・カミュ

母親の葬儀で涙を流さなかった青年ムルソーを主人公に、社会の常識と個人のあり方を問いかける小説。カミュが追究した「不条理」という思想に触れられる代表作です。
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