Indiebase編集部です。
氷に覆われた世界に、長い白髭の老人が立っています。
背後には大鎌を担いだ死神。空には白く輝く天使が浮かび、手前には女性の遺体が横たわっています。
ハンガリー出身の画家アドルフ・ヒレミー=ヒルシュルが描いた『世界の果てのアハシュエロス』(1888年、個人蔵)。
まるでダークファンタジーのような光景ですが、ここには恐ろしい物語が隠されています。
世界が滅亡しても、この老人だけは死ぬことを許されないのです。
永遠にさまようことを命じられた男
老人の名前はアハシュエロス。
ヨーロッパに伝わる「さまよえるユダヤ人」の伝説に登場する人物です。
伝説では、十字架を背負って処刑場へ向かうイエス・キリストを侮辱したため、キリストが再び現れる日まで地上をさまよう罰を受けたとされています。
老いることはあっても、死によって旅を終えることはできません。
そして、この絵が描いているのは世界の終末。
永遠の命を与えられた男が、ついに人類の最後を見届ける瞬間なのです。
死神と天使、そして最後の人類

老人の背後には、赤黒い布をまとった骸骨の死神が立っています。
その大鎌は、あらゆる命を刈り取る死の象徴です。
手前に横たわる女性は、滅び去った人類を象徴しています。
周囲には黒いカラスが集まり、世界に残された生命の気配はほとんどありません。
一方、左上には光を放つ白い天使が浮かんでいます。
この天使が象徴するのは「希望」。
死神と希望の天使に挟まれ、老人は終わりのない運命と向き合っています。
永遠の命は、本当に幸せなのか
画面を支配するのは、青黒い空と冷たい氷の世界です。
約2.3メートルの横幅を持つ巨大な画面に、人類が消え去った後の静寂が広がっています。
この作品を描いたヒレミー=ヒルシュルは、神話や歴史を題材にした幻想的な絵画で知られる画家でした。
『世界の果てのアハシュエロス』では、誰もが憧れるはずの不死が、恐ろしい罰として描かれています。
家族も友人も、文明さえも失われた世界。
最後の一人になっても生き続けなければならないとしたら、それは祝福なのでしょうか。
氷の世界に立ち尽くす老人の姿は、永遠の命が持つ残酷さを物語っています。
(文:Indiebase編集部)
