Indiebase編集部です。
暗闇の中、三人の魔女が一人の男を空中へ持ち上げています。
魔女たちは奇妙な三角形の帽子をかぶり、男の体に口を近づけています。その下では、白い布で頭を覆った人物が逃げるように歩き、別の男は地面にうずくまっています。
スペインの画家フランシスコ・デ・ゴヤが描いた『魔女たちの飛翔』(1798年、プラド美術館所蔵)。
空中で男を襲う魔女たちと、地上で何も見ようとしない人々。
ゴヤは、この奇妙な光景に何を込めたのでしょうか。
空を飛ぶ三人の魔女は何をしているのか
三人の魔女は、裸に近い姿で宙に浮かび、一人の男を支えています。
男の体は力なく垂れ下がり、魔女たちはその肉体に噛みついているようにも見えます。
魔女の帽子にはヘビのような模様が描かれています。これは、当時の異端審問で用いられた罪人の帽子を連想させるものです。
18世紀末のスペインでは、魔女や悪魔への迷信が根強く残っていました。
一方、ゴヤは理性や科学を重視する啓蒙思想にも触れており、迷信や宗教的な権威を批判する作品を制作しています。
この絵も、単なる怪奇場面ではなく、迷信によって人々が支配される社会への風刺と解釈されています。
地上の男たちはなぜ顔を隠すのか

空中の魔女たち以上に奇妙なのが、地上にいる人々の行動です。
白い布をかぶった男は、両手で顔を覆いながら歩いています。
その足元では、別の男が耳を塞ぐように身を縮めています。
さらに右端には、ロバが静かに立っています。
ロバは伝統的に愚かさの象徴として使われることがあり、この作品でも無知や迷信との関係が指摘されています。
恐ろしい出来事を前に、目を閉じ、耳を塞ぐ人々。
見ようとせず、聞こうとしない態度そのものが、ゴヤの批判の対象だったのかもしれません。
ゴヤが描いた迷信と恐怖の世界
『魔女たちの飛翔』は、ゴヤがオスーナ公爵夫妻のために制作した、魔女や悪魔を題材とする連作の一つです。
同じ1799年には、版画集『ロス・カプリチョス』を発表しました。
その代表作『理性の眠りは怪物を生む』では、眠る人物の周囲に不気味な生き物たちが集まっています。
理性を失ったとき、人間は迷信や恐怖に支配される。
ゴヤが繰り返し描いたこの主題は、『魔女たちの飛翔』にも通じています。
空では魔女が人間を襲い、地上では人々が顔を隠す。恐怖の原因が魔女なのか、それを信じ込む人間なのか。 その境界を曖昧にしたところに、この作品の不気味さがあります。
(文:Indiebase編集部)
