Indiebase編集部です。
大きく開かれた窓から差し込む、まぶしい日差し。
テーブルの上では赤い金魚が泳ぎ、花柄の衣装をまとった女性が静かに見つめています。
アメリカの画家チャイルド・ハッサムが描いた『金魚の鉢』(原題:The Goldfish Window、1916年、アメリカ・カリアー美術館所蔵)。
この穏やかな絵が生まれた場所には、興味深い歴史がありました。
芸術家たちが集まった「ホーリー・ハウス」
舞台は、アメリカ・コネチカット州の小さな村コス・コブ。
19世紀末、この村には画家や作家たちが集まり、芸術家村が形成されていました。
その中心となったのが、ホーリー一家の営む下宿屋「ホーリー・ハウス」です。
ハッサムも1890年代から繰り返し滞在し、周辺の風景を描きました。
実は1912年にも、ホーリー家の女主人を描いた作品『Mrs. Holley of Cos Cob, Connecticut』に、丸い金魚鉢を登場させています。

この金魚鉢は、画家にとって以前からなじみのあるモチーフだったのです。
女性が着ているのは日本風の衣装?
もうひとつ注目したいのが、女性の花柄の衣装です。
当時、欧米では日本美術や日本文化への関心が高まり、「ジャポニスム」と呼ばれる流行が広がっていました。
ホーリー・ハウスにも日本趣味の装飾が取り入れられ、ハッサムはモデルに着物風の衣装を着せて描くことがありました。
この作品にも、そうした日本趣味の影響が感じられます。
窓の外には緑豊かな庭。室内には金魚鉢と女性。
東洋趣味とアメリカの田園風景が、一枚の絵の中で溶け合っています。

一瞬の光景を、時間をかけて描いた
印象派と聞くと、目の前の風景を素早く描くイメージがあるかもしれません。
しかし、この作品は1915年または1916年の夏にコス・コブで描き始められ、1916年にニューヨークのアトリエで完成しました。
庭の緑、女性の衣装、ガラス越しに泳ぐ金魚。
ハッサムは、それぞれに差し込む光を丁寧に描き分けています。
芸術家たちが集まった下宿屋の窓辺。その何気ない日常が、光あふれる一枚の名画になったのです。
(文:Indiebase編集部)
