Indiebase編集部です。
筋肉が盛り上がった人間の体に、獣のような顔。口からは長い舌が伸び、手には小さな杯を持っています。
暗闇の中を歩くこの怪物の正体は、なんと「ノミ」。
イギリスの画家ウィリアム・ブレイクが描いた『蚤の幽霊』(1819〜1820年頃、ロンドン・テート所蔵)です。
しかし、これは想像だけで生み出された怪物ではありません。
ブレイクは、この恐ろしい姿を実際に幻視し、怪物と会話したと語っているのです。
ノミの中には、血に飢えた人間の魂がいる
ブレイクによれば、ノミの正体は、かつて血を求めすぎた人間の魂でした。
その残虐な性質を恐れた神の摂理によって、彼らは小さな昆虫の体に閉じ込められたのです。
ブレイクは、もしノミが馬ほどの大きさになれば、大量の血を飲み、国の大部分から人間が消えてしまうと語りました。
絵の怪物が手にしている杯も、血を飲むためのもの。
小さな害虫の中に、恐ろしい殺戮者の魂が潜んでいる。
そんな異様な世界観が、この一枚に凝縮されています。
画家は幽霊を目の前にして描いた
ブレイクは生涯を通じて、天使や霊的存在を見たと語る人物でした。
1819年頃、画家で占星術師のジョン・ヴァーリーは、ブレイクに幻視した存在の肖像画を描くよう勧めます。
その中でも特に奇妙だったのが、ノミの幽霊でした。
ヴァーリーの記録によれば、ブレイクは目の前に怪物が現れたと告げ、その姿を描き始めました。
ところが途中で怪物が口を開いたため、ブレイクは別の場所に口だけを描き、閉じるのを待ったといいます。
まるで本物のモデルを目の前にして、肖像画を描いているかのようでした。
小さな絵に封じ込められた巨大な怪物

この作品の大きさは、縦約21センチ、横約16センチ。
意外なほど小さな絵です。
ブレイクは木の板にテンペラと金を使い、暗い舞台のような空間に怪物を描きました。
背後には星が輝き、怪物は今にも画面の外へ歩き出しそうです。
詩人でもあったブレイクにとって、目に見える世界だけが現実ではありませんでした。
一匹の小さなノミの中に、血に飢えた巨大な怪物が潜んでいる。
『蚤の幽霊』は、そんなブレイクの異様な想像力を象徴する一枚です。
(文:Indiebase編集部)
