Indiebase編集部です。
8月21日、大阪中之島美術館で「フェルメール《真珠の耳飾りの少女》展 17世紀オランダ絵画の名品、奇跡の再来日」がいよいよ開幕します。オランダ・マウリッツハイス美術館の至宝が日本にやってくるのは2012年以来14年ぶり。今後は海外への貸出が難しくなる可能性も報じられていて、日本で見られるのはこれが最後になるかもしれません。開幕記念として、この絵がなぜ特別なのかをあらためて整理しておきます。
実物は驚くほど小さい
会場で実物を前にすると、多くの人がまず驚くのがそのサイズです。縦44.5cm×横39.0cm。だいたいA3用紙より少し大きいくらいで、教科書や画集の図版で見るイメージよりずっとコンパクトです。フェルメールの作品は現存が三十数点(諸説あり)ととても少なく、しかも多くがこの絵と同じように小ぶりです。大作を得意とした同時代のレンブラントとは対照的に、フェルメールは小さな画面の中に光を封じ込めることを追求した画家でした。会場では、この「思ったより小さい」という体感そのものも見どころのひとつです。

肖像画ではなく「トローニー」
意外と知られていないのが、これは特定の誰かを描いた肖像画ではないという点です。当時のオランダには「トローニー」と呼ばれるジャンルがありました。実在の人物の記録ではなく、特徴的な表情や衣装をまとった架空の人物像を描くものです。この少女がまとうトルコ風のターバンも、当時のオランダの日常着ではなく、異国情緒を演出するための衣装でした。つまりこの少女が誰なのかは、わからないのではなく、そもそも「誰でもない」可能性が高いのです。それでも見る者は、こちらを振り返る視線と薄く開いた唇に、つい物語を読み込んでしまう。小説や映画『真珠の耳飾りの少女』が生まれたのも、この余白があってこそでした。

真珠は本物ではないかもしれない
タイトルにもなっている耳元の真珠にも謎があります。近年の研究では、この大きさの真珠が本物なら当時としても極めて高価すぎること、そして描写をよく見ると輪郭線がなく、光の点だけで表現されていることから、ガラスや錫に真珠風の加工を施した模造品ではないかという説が有力視されています。フェルメールは細部を描き込むのではなく、光の反射だけで質感を伝える画家でした。この真珠はその技法の極致で、近づいて見るとほんの数筆の白い絵の具にすぎません。1990年代の修復で、背景が実は深い緑色だったことが判明したのも、この絵をめぐる発見のひとつです。長年の変色によって、私たちが見慣れていた黒い背景は、本来の色ではありませんでした。

「オランダのモナ・リザ」になるまで
意外なことに、この絵は長らく無名でした。フェルメール自身が死後忘れられた画家で、再評価が始まったのは19世紀後半になってからです。この絵も1881年のオークションで、額縁代にもならないような値段で落札されています。落札者が1902年に遺贈した先が、現在のマウリッツハイス美術館でした。「オランダのモナ・リザ」と呼ばれ世界的アイコンになったのは、むしろ20世紀後半以降のことです。

展覧会情報
今回の展覧会では、本作に加えてフェルメール最初期の《ディアナとニンフたち》も来日。フェルメールの初期と全盛期、両方の作風を見比べられる貴重な機会です。あわせてレンブラントやヤン・ステーンら17世紀オランダ絵画の名品10点も展示され、歴史画・肖像画・風俗画・風景画など6つのテーマで構成されます。
・会期:2026年8月21日(金)〜9月27日(日)会期中無休
・会場:大阪中之島美術館 5階展示室
・開場時間:9:30〜17:00(金曜、9月6・8・12〜16・19〜27日は20:00まで)入場は閉場30分前まで
・観覧料:一般3,000円、高大生1,500円、小中生500円、未就学児無料(日時指定制)公式サイト:https://vermeer2026.exhibit.jp/
(文:Indiebase編集部)
