CULTURE

巨大な臼に乗って森を飛ぶ魔女「バーバ・ヤーガ」とは? 『千と千尋の神隠し』の湯婆婆にも通じる、ロシア民話の恐ろしい存在

Indiebase編集部です。

世界には、美しくも不気味な絵画や、思わず目を疑うような奇妙な作品が数多く存在します。今回は、そんな一度見たら忘れられないアートの中から、ロシアの画家イワン・ビリービンが描いた「バーバ・ヤーガ」を紹介します。

深い森の中を、白髪を振り乱した老婆が飛んでいく。乗っているのは箒ではなく、巨大な木製の臼。長い鼻に鋭い目つき、その姿はまるでホラーゲームに登場する魔女のようです。

この奇妙な老婆の名前は「バーバ・ヤーガ」。ロシアをはじめとするスラヴ地方の民話に登場する存在で、人間を食べる恐ろしい怪物として語られる一方、ときには主人公を助ける不思議な魔女としても知られています。

その姿や物語上の役割は、宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』に登場する湯婆婆とも興味深い共通点があります。

巨大な臼に乗って森を飛ぶ魔女「バーバ・ヤーガ」

作品名: バーバ・ヤーガ(Baba Yaga)
作者: イワン・ビリービン(Ivan Bilibin)
制作年: 1900年
出典: ロシア民話『美しいワシリーサ』

1900年、ロシアの画家イワン・ビリービン(1876〜1942)は、民話『美しいワシリーサ』の挿絵として、バーバ・ヤーガの姿を描きました。長い白髪を風になびかせ、巨大な臼に乗って森の中を進む老婆。周囲には白樺の木々が生い茂り、地面には赤いキノコが点在しています。

バーバ・ヤーガは、一般的な魔女のように箒にまたがって飛ぶわけではありません。臼に乗り、杵を使って進み、箒で自分の通った跡を消すとされています。こうした奇妙な移動方法も、ロシア民話に伝わる彼女の特徴です。

人間を食べる魔女と、鶏の脚が生えた家

バーバ・ヤーガは、スラヴ地方の民話に古くから登場する超自然的な老婆です。深い森の奥に暮らし、魔法を操り、ときには迷い込んだ人間を食べてしまう恐ろしい存在として描かれます。さらに奇妙なのが、彼女の住む家。巨大な鶏の脚で支えられた小屋は、命令に応じて向きを変え、周囲には人間の骨で作られた柵や頭蓋骨が並ぶこともあります。

バーバ・ヤーガが住む家

ビリービンの挿絵の題材となった『美しいワシリーサ』では、継母たちに命じられて森へ向かった少女が、バーバ・ヤーガの小屋にたどり着きます。魔女は少女に困難な仕事を命じ、失敗すれば食べてしまうと脅しますが、ワシリーサは亡き母から授かった人形の助けで試練を乗り越えます。やがて魔女から火の灯った頭蓋骨を渡されて帰宅しますが、その頭蓋骨は継母と義理の姉たちを焼き尽くしてしまうのです。

『千と千尋の神隠し』の湯婆婆との共通点

イワン・ビリービン『バーバ・ヤーガ』(1900年)/ロシア民話『美しいワシリーサ』の挿絵

バーバ・ヤーガの姿を見て、宮崎駿監督のアニメ映画『千と千尋の神隠し』(2001年)に登場する湯婆婆を思い浮かべる人もいるのではないでしょうか。湯婆婆は巨大な頭と鋭い目を持つ老婆の魔女で、異世界の湯屋「油屋」を支配し、迷い込んだ少女・千尋に厳しい条件を突きつけます。

© 2001 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli, NDDTM

両者に共通するのは、恐ろしい老婆の魔女という外見だけではありません。『美しいワシリーサ』では少女が魔女に命じられた仕事をこなし、『千と千尋の神隠し』でも千尋が湯婆婆のもとで働きながら成長していきます。また、どちらも単純な悪役ではなく、主人公の運命を大きく変える存在です。ただし、宮崎駿監督がバーバ・ヤーガを湯婆婆の直接的なモデルにしたという確かな資料はなく、あくまで物語上の興味深い共通点といえるでしょう。

100年以上前に描かれた、幻想的な魔女の世界

この作品を描いたイワン・ビリービンは、ロシアの民話や伝説を題材とした挿絵で知られる画家です。装飾的な縁取りや明確な輪郭線、平面的な色彩を特徴とし、ロシアの伝統美術とアール・ヌーヴォーの影響を感じさせる独自の画風を確立しました。

イワン・ビリービン『赤い騎士』(1900年)/ロシア民話『美しいワシリーサ』の挿絵

今回の『バーバ・ヤーガ』でも、複雑に重なり合う木々や地面に生えた赤いキノコ、画面を囲む幾何学模様が印象的です。恐ろしい魔女でありながら、どこかユーモラスで、目を離せない魅力を持つ老婆。100年以上前の挿絵とは思えないほど、現代のダークファンタジーやホラーゲームにも通じる世界観が広がっています。

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