Indiebase編集部です。
暗闇の中に浮かぶ、一人の人物の横顔。
しかし、よく見ると肌も髪もありません。
顔を作っているのは、魚、カニ、タコ、貝など、無数の水中生物です。
イタリアの画家ジュゼッペ・アルチンボルドが描いた『水』(1566年、ウィーン美術史美術館所蔵)。
この奇妙な肖像画には、16世紀の宮廷文化と、自然界への強い好奇心が詰まっています。
魚の群れが、人間の顔に変わる
画面の上部には、さまざまな魚が積み重なっています。
大きな魚の口や目が人物の顔を形作り、頬にはエイのような平たい魚。
首元には真珠の首飾りが巻かれ、肩のあたりにはカニやタコが見えます。
一匹ずつ見ると、どれも独立した生き物です。
ところが、少し離れて眺めると、不思議なことに人間の横顔が現れます。
アルチンボルドは、こうした仕掛けを得意とした画家でした。
皇帝の宮廷で生まれた奇妙な絵
アルチンボルドは1562年、ハプスブルク家の宮廷画家となりました。
彼が仕えた宮廷では、美術品だけでなく、珍しい動植物や自然界の標本にも強い関心が寄せられていました。
『水』は、火・水・大地・空気をそれぞれ人物の姿で表した「四大元素」連作の一枚です。




この連作は、皇帝マクシミリアン2世の宮廷で制作されました。
自然界のあらゆるものを組み合わせ、一人の人物を作り出す。
その発想には、世界の秩序を理解しようとした当時の知的な関心も反映されています。
400年後、シュルレアリストたちが再発見

アルチンボルドの作品は、後の時代に長く忘れられていました。
しかし20世紀になると、現実にはありえない組み合わせを好んだシュルレアリストたちが、その独創性に注目します。
遠くから見ると人間の顔。
近づくと、無数の魚や海の生き物。
一枚の絵の中に、二つのまったく異なる世界が存在しているのです。
400年以上前に描かれたとは思えない、遊び心に満ちた作品です。
(文:Indiebase編集部)
