Indiebase編集部です。
鮮やかな緑の畑が広がり、一本道を馬車が走っています。
その奥には、白い煙を上げながら進む蒸気機関車。
のどかな田園風景のなかに、二つの乗り物が描かれています。
フィンセント・ファン・ゴッホの『馬車と列車の走る風景』(1890年、モスクワのプーシキン美術館所蔵)。
実はこの絵、ゴッホが亡くなるわずか数週間前に描かれた作品です。
馬車と蒸気機関車が走る、不思議な風景
画面の中央を横切る道には、一台の馬車。
その奥を走る列車は、長い煙を空へと吐き出しています。
19世紀末のヨーロッパでは、鉄道網が広がり、人々の移動や物流が大きく変化していました。
この絵には、昔ながらの馬車と近代的な蒸気機関車が同時に登場しています。


しかし、ゴッホが描いたのは乗り物だけではありません。
畑の畝はうねるように続き、木々や草は短い筆遣いで生き生きと表現されています。
風景全体が、まるで動いているかのようです。
ゴッホが最後に暮らした村
1890年5月、ゴッホは南フランスの療養施設を退院し、パリ近郊のオーヴェル=シュル=オワーズへ移りました。
そこで医師ポール・ガシェの診察を受けながら、絵を描き続けます。
ゴッホは村の周囲を歩き、麦畑や農家、庭園などを次々と作品にしました。
『馬車と列車の走る風景』も、この時期に描かれた一枚です。
特に目を引くのは、画面いっぱいに広がる緑色。
畑の緑に青や黄色を重ね、夏の田園風景を鮮やかに表現しています。

死の直前まで描き続けた画家
ゴッホは1890年7月29日、37歳で亡くなりました。
オーヴェルで過ごしたのは、わずか約70日間。
それでも、この短い期間に数多くの絵画を制作しています。
『馬車と列車の走る風景』が描かれたのも、その最後の数週間でした。
晩年のゴッホの作品には、不安や孤独を感じさせるものもあります。
しかし、この絵には明るい緑の畑が広がり、人々の日常が静かに続いています。
死が間近に迫っていた画家が、こんなにも生命力に満ちた風景を描いていた。
その事実を知ると、何気ない田園風景が少し違って見えてきます。
(文:Indiebase編集部)
