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アメリカの画家アボット・ハンダーソン・セイヤーが描いた『私の子供たち』(1897年頃、スミソニアン・アメリカ美術館所蔵)。
白い衣をまとった少女が中央に立ち、その両脇から2人の子どもが顔をのぞかせています。
描かれているのは、画家自身の子どもたち。中央が長女メアリー、左がグラディス、右がジェラルドです。
しかし、この絵は普通の家族肖像画とは少し違います。
中央のメアリーは、まるで神話に登場する女神のような姿で描かれているのです。
娘を勝利の女神に見立てた肖像画
メアリーが手にしているのは、月桂樹の冠です。
古代ギリシャやローマでは、月桂樹は勝利や栄誉を象徴する植物でした。
さらに、彼女の背後に広がる暗い木々に注目してください。
枝葉の輪郭が、まるで背中から翼が生えているように見えます。
白い衣、月桂樹の冠、そして翼。
これらの要素は、古代ギリシャの勝利の女神ニケを思わせます。
セイヤーは、娘の姿を借りて、神話の女神のような気高さを表現しようとしたと考えられています。
実は、天使を描き続けた画家だった
セイヤーは、女性や子どもを天使のように描いた作品で知られています。
代表作『エンジェル』(1887年)でも、娘メアリーをモデルに、翼を持つ少女を描きました。

興味深いのは、セイヤーが特定の宗教的な物語を描こうとしていたわけではないことです。
彼は身近な家族をモデルにしながら、純粋さや美しさ、精神的な気高さを表現しようとしました。
『私の子供たち』も、構図や額縁のデザインが、ルネサンス期の宗教画を思わせる作品です。
家族の肖像でありながら、祭壇画のような神聖さを感じさせるのは、そのためでしょう。

画家は動物の迷彩を研究した科学者でもあった
セイヤーには、もう一つ意外な顔がありました。
動物の保護色を研究する自然科学者でもあったのです。
彼は、動物の背中が暗く、腹側が明るいことで立体感が弱まり、周囲の環境に溶け込みやすくなる現象に注目しました。

これは現在「カウンターシェーディング」と呼ばれ、セイヤーの名を冠して「セイヤーの法則」とも呼ばれています。
1910年には、息子ジェラルドとともに動物の保護色に関する研究書も出版しました。
人物を背景に溶け込ませるような表現と、自然界の色彩への関心。画家と研究者という二つの顔は、彼の中でつながっていたのかもしれません。
我が子を描いたはずの肖像画が、いつの間にか神話の女神を思わせる姿になっている。
セイヤーにとって、子どもたちは単なるモデルではなく、美しさや理想を表現するための大切な存在だったのでしょう。
(文:Indiebase編集部)
