『もしもの愛』のヴェネツィア国際映画祭・銀獅子賞(審査員大賞)受賞をきっかけに、あらためて注目を集めているイ・チャンドン監督。1997年の『グリーンフィッシュ』から2018年の『バーニング 劇場版』まで、約20年間で発表した長編監督作はわずか6本。寡作ながら、作品を発表するたびに国内外で高い評価を獲得してきた作家です。
大邱出身のイ監督は、もともと高校教師と小説家という異色の経歴の持ち主。40代を過ぎてから映画監督へ転身し、韓国映画界を代表する巨匠としての地位を築いてきました。ここでは、『バーニング 劇場版』までの長編6作品と、日本公開を控える最新作『もしもの愛』を順に紹介します。
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『グリーンフィッシュ』(1997年)

イ監督が43歳で世に送り出した監督デビュー作。急速な都市開発が進む韓国社会の中で、故郷を追われた青年がギャングの世界に足を踏み入れていく姿を描きます。作品全体に緑色のモチーフが散りばめられていることでも知られ、デビュー作にして早くも高い評価を獲得しました。
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『ペパーミント・キャンディー』(1999年)

長編第2作にして、イ監督の名を国際的に知らしめた一本。主人公の死の場面から始まり、時間を遡りながら彼の20年間をたどっていくという構成が衝撃的な作品です。韓国現代史を背景に、一人の人間がどのように壊れていったのかを描き、韓国のアカデミー賞にあたる大鐘賞では作品賞など主要5部門を受賞しました。
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『オアシス』(2002年)

脳性麻痺の女性と、知的障害のある前科者の男性という、社会から見過ごされがちな二人の恋愛を真正面から描いた作品。第59回ヴェネツィア国際映画祭のコンペティション部門に出品され、銀獅子賞(監督賞)を含む3部門を受賞しました。イ監督にとって、国際的な評価を決定づけた一本といえます。
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『シークレット・サンシャイン』(2007年)

事故で夫を亡くした女性が、息子とともに夫の故郷へ移り住むところから始まる物語。喪失と信仰、そして再生というテーマを丁寧に描き、主演のチョン・ドヨンはカンヌ国際映画祭の主演女優賞に輝きました。最新作『もしもの愛』にも同じくチョン・ドヨンが出演しており、両作を続けて観るのもおすすめです。
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『ポエトリー アグネスの詩』(2010年)

初期のアルツハイマー病を患う初老の女性が、詩作を通じて自分自身と向き合っていく姿を描いた作品。第63回カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞しました。日常の中に美しさを見出そうとする主人公の姿は、静かながら深く心に残ります。
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『バーニング 劇場版』(2018年)

村上春樹の短編小説「納屋を焼く」を原作に、イ監督が大胆に翻案した長編。第71回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品され、国際批評家連盟賞を受賞。批評家による採点でも記録的な高評価を集めました。また、アカデミー外国語映画賞(現・国際長編映画賞)の韓国代表に選出され、韓国映画として初めて最終候補9作品のショートリスト入りを果たしました。国内外で最も語り継がれている代表作のひとつです。
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『もしもの愛』(2026年)

そして、『バーニング 劇場版』以来8年ぶりとなる長編監督作が『もしもの愛』です。労働者夫婦とドキュメンタリー映画に関わる夫婦、2組の夫婦を通じて、格差や労働、愛、人間の尊厳を見つめる作品。イ・チャンドンが長年構想してきた企画をもとに制作されました。
第83回ヴェネツィア国際映画祭のコンペティション部門に出品され、銀獅子賞(審査員大賞)を受賞。日本では2026年10月23日より一部劇場で先行公開され、11月6日からNetflixで配信予定です。
こうして並べてみると、デビュー作から最新作まで、イ監督は一貫して「社会の片隅で生きる人間」の姿を見つめ続けてきたことがわかります。派手さはなくとも、観る者の心に静かに、しかし確実に爪痕を残す作風。作品数こそ決して多くありませんが、一作ごとにこれだけの評価を積み重ねてきたことこそ、「外れなし」と呼びたくなる理由なのかもしれません。
なお、2023年には『グリーンフィッシュ』から『バーニング 劇場版』までの長編6作品と、日本初公開となったドキュメンタリー『イ・チャンドン アイロニーの芸術』(2022年)を上映する「イ・チャンドン レトロスペクティヴ4K」が日本国内で開催されました。配信ではなかなか出会えない作品もあるため、特集上映やリバイバル上映の機会があれば、ぜひスクリーンで観ておきたいところです。
