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イギリスの画家ハーバート・ジェームズ・ドレイパーが描いた『イカロスの哀悼』(1898年、別訳『イカロスの嘆き』、イギリス・ロンドンのテート所蔵)。巨大な翼を広げた青年が岩の上に横たわり、その周囲を3人の女性が取り囲んでいます。
青年は目を閉じ、力なく腕を垂らしています。彼こそ、太陽に近づきすぎて墜落したギリシャ神話のイカロスです。
しかし、この絵には神話の物語と異なる点がいくつもあります。
太陽に近づきすぎたイカロスの悲劇
イカロスは、ギリシャ神話に登場する名工ダイダロスの息子です。
クレタ島から脱出するため、父は鳥の羽を蝋で固めた翼を作り、息子とともに空へ飛び立ちました。
父は「太陽に近づきすぎてはいけない」と忠告します。しかし、飛ぶ喜びに夢中になったイカロスは高度を上げ、太陽の熱で蝋が溶けて海へ墜落してしまいました。
この神話は、人間の慢心や、限界を超えようとする危うさを象徴する物語として知られています。
実は、3人の女性は神話に登場しない
ドレイパーの絵で興味深いのは、イカロスを取り囲む3人の女性です。
彼女たちは自然界に宿る精霊「ニンフ」を思わせる存在ですが、古代ローマの詩人オウィディウスの『変身物語』には、3人の女性がイカロスを弔う場面は登場しません。
つまり、この美しい弔いの場面は、ドレイパーが神話をもとに創り出した独自の表現なのです。
墜落の瞬間ではなく、すべてが終わった後の静かな悲しみを描いたところに、この作品の特徴があります。

なぜ翼は壊れていないのか?
もう一つ不思議なのが、イカロスの翼です。
神話では蝋が溶けて翼が壊れたはずなのに、絵の中では巨大な翼が美しい姿を保っています。
ドレイパーは神話を忠実に再現するよりも、翼を広げた青年の姿を印象的に描くことを選んだのでしょう。
1898年にロイヤル・アカデミーで発表された本作は、ドレイパーの代表作の一つとなりました。
太陽を目指した青年は、もう二度と空へ戻ることはありません。
それでも、背中には美しい翼が残されています。
ドレイパーが描いたのは、無謀な挑戦への戒めではなく、空を飛ぼうとした青年の悲劇だったのかもしれません。
(文:Indiebase編集部)
