Indiebase編集部です。
スイス出身の画家ウジェーヌ・グラッセが描いた『三人の女と三匹の狼』(1892年、フランス・パリの装飾美術館所蔵)。
赤茶色に染まった森の中を、3人の女性が宙に浮かぶように移動しています。先頭の女性は目を大きく見開き、長い黒髪を後方へなびかせています。
その足元では、3匹の黒い狼が木々の間から顔をのぞかせています。
女性たちは狼から逃げているのでしょうか。それとも、狼たちとともに森を進んでいるのでしょうか。
不思議なことに、この絵がどのような物語を描いたものなのか、はっきりとはわかっていません。
3人の女性は魔女なのか?
女性たちは透き通った薄い衣をまとい、地面に足をつけずに飛んでいるように見えます。
その姿は、幽霊や魔女を思わせます。
ヨーロッパの民間伝承には、魔女が夜空を飛び、狼などの動物と結びつけられる物語が数多く存在します。
本作も、英語では『Three Witches and Three Wolves』と紹介されることがあります。
しかし、特定の童話や伝説を題材にした作品なのかは確認されていません。
先頭の女性が見せる恐怖の表情も、何を恐れているのかは不明です。
なぜ狼たちは襲いかからないのか?

画面下部には、3匹の黒い狼が描かれています。
鋭い耳を立て、暗闇の中から顔をのぞかせる狼たち。しかし、不思議なことに、女性たちへ飛びかかる様子はありません。
狼たちは獲物を狙っているのでしょうか。それとも、女性たちを見守る存在なのでしょうか。
さらに、画面の手前には角笛のようなものが落ちています。
誰が落としたのか、何のために使われたのか。その説明も残されていません。
まるで物語の途中の一瞬だけを切り取ったような構図が、見る者の想像力をかき立てます。
アール・ヌーヴォーの先駆者が描いた幻想世界
グラッセは1845年にスイスで生まれ、フランスで活躍した装飾芸術家です。
ポスターや書籍の挿絵、ステンドグラスなどを手がけ、アール・ヌーヴォーの発展に大きな影響を与えました。
植物を思わせる曲線や、装飾的な模様を得意とした画家でもあります。
本作でも、女性たちの長い髪や衣服、複雑に入り組んだ木々が、独特の曲線を生み出しています。
赤茶色の森と青白い女性たちの対比も印象的です。
森を飛ぶ3人の女性と、木々の間に潜む3匹の狼。
彼女たちは何から逃げているのか。そもそも、本当に逃げているのか。
その答えがわからないことこそ、この絵の不気味さなのかもしれません。
(文:Indiebase編集部)
