Indiebase編集部です。
スイス出身の画家フェリックス・ヴァロットンが描いた『ボール』(1899年、フランス・パリのオルセー美術館所蔵)。
公園のような場所で、麦わら帽子をかぶった子どもが赤いボールを追いかけています。画面の奥には、2人の女性が並んで立っています。
一見すると、何気ない日常を描いた微笑ましい絵です。
しかし、よく見ると奇妙な点があります。
子どもはまるで真上から見下ろされているのに、遠くの女性たちは横から眺めたように描かれているのです。
なぜヴァロットンは、このような不思議な構図を選んだのでしょうか。
子どもを真上から見下ろす奇妙な視点
この絵で最も特徴的なのは、極端な鳥瞰構図です。
画面の大部分を占めるのは、黄土色の地面と深い緑の木陰。子どもは画面の右下に小さく描かれています。
通常の風景画なら、地平線や遠近法によって奥行きを表現します。しかし、この絵には空も地平線もありません。
そのため、鑑賞者はまるで高い場所から、子どもの動きをこっそり覗いているような感覚になります。
こうした大胆な構図には、日本の浮世絵や写真からの影響が指摘されています。
遠くに立つ2人の女性は何者なのか?

画面の左上には、青と白の服を着た2人の女性が立っています。
子どもとは大きく離れており、何をしているのかもわかりません。
母親と付き添いの女性なのでしょうか。それとも、子どもとは無関係の通行人なのでしょうか。
興味深いのは、子どもが勢いよく走っている一方で、女性たちは静止していることです。
画面の中には、動き回る子どもの世界と、動かない大人たちの世界が同時に存在しています。
この距離感が、穏やかな公園の風景にどこか不思議な緊張感を与えています。
実は、白黒の木版画で有名になった画家
ヴァロットンは1865年にスイスで生まれ、若くしてパリへ渡りました。
彼が国際的な名声を得たのは、油彩画ではなく白黒の木版画でした。

大胆な黒い面と白い余白を組み合わせ、日常生活の中に潜む人間関係や心理を描いた作品で知られています。
『ボール』にも、その特徴が表れています。
暗い緑の木陰と明るい地面を大きな色面で分け、人物を小さく配置することで、独特の緊張感を生み出しているのです。
赤いボールを追いかける子どもと、遠くに立つ2人の女性。
誰もが見たことのあるような公園の風景なのに、なぜか目が離せない。
ヴァロットンは、ありふれた日常を、少し奇妙な世界へと変えてしまったのです。
(文:Indiebase編集部)
