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死者を乗せた小舟は、どこへ向かうのか? ベックリン『死の島』とは? 5つのバージョンと名画の謎

Indiebase編集部です。

暗い海に浮かぶ、岩に囲まれた小さな島。中央には黒々とした糸杉が並び、その手前を一艘の小舟が静かに進んでいます。舟には白い布をまとった人物が立ち、その前には棺のような白い箱が置かれています。

スイス出身の画家アルノルト・ベックリンが描いた『死の島』(Die Toteninsel)は、19世紀の象徴主義絵画を代表する作品のひとつです。1880年から1886年にかけて5つのバージョンが制作され、その不気味で幻想的な風景は、後世の芸術家たちにも影響を与えました。

なぜベックリンは、同じ島を5回も描いたのでしょうか。そして、この舟はいったいどこへ向かっているのでしょうか。

死者を乗せた舟が向かう、謎の島

『死の島』に描かれた糸杉は、ヨーロッパで墓地や死と結びつけられてきた樹木です。岩壁には墓室を思わせる四角い開口部があり、小舟に乗せられた白い箱は棺のようにも見えます。こうした要素から、この島は死者がたどり着く場所として解釈されてきました。

ただし、絵の中に明確な答えはありません。白い人物は死者なのか、それとも死者を送り届ける人物なのか。島は現実に存在する墓地なのか、それとも死後の世界なのか。何も起きていない静かな風景でありながら、見る人に強い不安と神秘性を感じさせることが、この作品の魅力です。

なぜ『死の島』には5つのバージョンがあるのか?

ベックリンは1880年に最初の『死の島』を制作しました。その後、作品を気に入った依頼主からの注文などに応じて制作を重ね、1886年までに5つのバージョンが生まれています。

5作品は基本的な構図を共有していますが、岩の形、糸杉の配置、空や海の色、島の建造物などが異なります。

第1版(1880年)

最初に描かれたバージョン。暗い海と空に囲まれた島が、静かな不気味さを漂わせています。現在はスイスのバーゼル美術館が所蔵しています。

第2版(1880年)

第1版と同じ年に制作された作品。ニューヨークのメトロポリタン美術館に所蔵されています。第1版と比べると、島の岩壁や糸杉の配置に違いが見られます。

第3版(1883年)

5作品の中でも特に有名なバージョンです。アドルフ・ヒトラーが所有し、ベルリンの総統官邸に飾っていたことで知られています。現在はベルリンの旧国立美術館が所蔵しています。

第4版(1884年)

銀行家ハインリヒ・ティッセンの依頼で制作されたバージョン。第二次世界大戦中に失われ、現在は白黒写真などでしか姿を確認できません。

第5版(1886年)

最後に制作されたバージョン。ライプツィヒ造形美術館が所蔵しています。岩壁が大きく描かれ、ほかのバージョンとは異なる印象を与えます。

同じ場所を描いているはずなのに、5作品を見比べると、まるで異なる世界の島のようにも感じられます。

ラフマニノフにも影響を与えた『死の島』

『死の島』はベックリンの生前から大きな人気を集め、特にドイツ語圏では複製画が広く普及しました。その幻想的な世界観は、絵画の枠を超えて音楽や文学などにも影響を与えています。

ロシアの作曲家セルゲイ・ラフマニノフは、この作品に着想を得て、1909年に交響詩『死の島』を作曲しました。また、シュルレアリスムの画家サルバドール・ダリも、ベックリンの作品を題材とした絵画を制作しています。

暗い海、孤立した島、死を思わせる建造物、正体のわからない人物。こうした組み合わせは、現代のダークファンタジーやホラーゲームの世界観にも通じるものがあります。

『死の島』とは対照的な『生の島』も存在する

実はベックリンは、1888年に『生の島』(Die Lebensinsel)という作品も描いています。

『生の島』

『死の島』では暗い海と岩壁、糸杉が画面を支配していますが、『生の島』には明るい空、豊かな緑、白鳥、そして水辺で過ごす人々が描かれています。

どちらも海に浮かぶ島を題材としながら、その雰囲気はまったく異なります。『死の島』が静寂と死を思わせるのに対し、『生の島』からは生命や自然の豊かさが感じられます。

『生の島』が正式な続編として制作されたと断定できるわけではありませんが、2作品を見比べることで、ベックリンが描いた幻想世界の奥深さを感じられるでしょう。

(文:Indiebase編集部)


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