Indiebase編集部です。
今日紹介するのは、スウェーデンの画家リッカルド・ベリが1897年に完成させた「騎士と乙女」。甲冑をまとった騎士が、綿毛だけになったたんぽぽ畑で、白い服の少女に寄り添っている場面です。一見幻想的な中世ロマンスに見えますが、成り立ちを調べると印象が変わってきます。
発端は、しおれたたんぽぽ畑だった
この幻想的な光景の出発点は、ゴットランド島で見た何の変哲もないたんぽぽ畑でした。花が終わって綿毛だけになった畑が、夕暮れになると粉をまぶしたような淡い紅色に染まる。ベリはこの色に強く惹かれ、そこに中世の騎士と乙女という物語を重ねることを思いつきました。つまり物語が先にあったのではなく、色と光景が先にあった絵だということになります。
完成までに10年
制作には長い時間がかかっています。現存する習作の中には1887年の日付が付いたものがあり、完成までに10年近い歳月を要したことになります。初期の習作は明るい日中の光で描かれていましたが、最終的な完成作では夕暮れの薄闇に変わっています。途中で光の設定自体を変えているわけです。習作の一枚には、友人だった歌手イサリアへの献辞とともに「騎士の胎芽」という書き込みも残っており、この絵が長い時間をかけて少しずつ形作られていった様子がうかがえます。

あえて印象派の手法を避けた
ベリはフランスで長く絵を学んだ画家ですが、当時主流だった印象派の手法にはなじまず、屋外で見たままの光を写し取る「プレイン・エア」の技法もあえて避けていました。代わりに1896年、彼は「ムード絵画(スティムニングスモーレリ)」という言葉を自ら提唱します。目に映る事実をそのまま描くのではなく、その場の空気や心の動きを描くという考え方です。「騎士と乙女」は、この理念をもっとも体現した作品のひとつとされています。
今はストックホルムの美術館に
現在この絵は、ストックホルムのティエルスカ・ギャラリーが所蔵しています。制作途中の習作の一枚も、のちに寄贈というかたちで同館のコレクションに加わり、完成作のすぐそばに並べて展示されているそうです。
(文:Indiebase編集部)
