Indiebase編集部です。
真っ暗な背景に浮かび上がる、一体の骸骨。
頭蓋骨には大きな眼窩がぽっかりと開き、むき出しの歯の間には、火の付いたタバコがくわえられています。
オランダの画家フィンセント・ファン・ゴッホが描いた『火の付いたタバコをくわえた骸骨』(1886年、ゴッホ美術館所蔵)は、骸骨がタバコを吸うという奇妙な光景を描いた作品です。
『ひまわり』や『星月夜』で知られるゴッホですが、この絵には意外なユーモアが込められています。
美術学校の授業を皮肉った作品?
1885年11月、ゴッホはベルギーのアントウェルペンに移り住み、翌1886年に王立美術アカデミーで学び始めました。
当時の美術学校では、人体の構造を理解するため、骸骨を観察してデッサンすることが一般的でした。
ゴッホもこうした授業を受けていましたが、伝統的な教育方法には不満を抱いていました。
そこで描いたのが、タバコをくわえた骸骨です。
本来は真面目な解剖学の教材である骸骨に、タバコを吸わせるといういたずらを加えたのです。
ゴッホ美術館も、この作品を若い画家によるユーモラスな冗談として紹介しています。
タバコを吸う骸骨が意味するもの
西洋美術では、頭蓋骨や骸骨は古くから死を象徴するモチーフでした。
「メメント・モリ(死を忘れるな)」という思想のもと、人間の命のはかなさを伝えるために描かれてきたのです。
この作品も、死を連想させる骸骨と、燃えて短くなっていくタバコを組み合わせています。
ただし、ゴッホが喫煙の危険性を訴えようとしたという証拠はありません。
ゴッホ自身も愛煙家でした。
死んでいるはずの骸骨が、まるで生きている人間のようにタバコを楽しんでいる。その不条理な組み合わせが、この作品の面白さです。

ゴッホが残した異色の一枚
この絵が制作された1886年は、ゴッホがパリへ移り住み、印象派の画家たちと交流を始める年でもありました。
その後、彼の作風は大きく変化し、明るい色彩と力強い筆遣いによる作品が生まれていきます。
一方、『火の付いたタバコをくわえた骸骨』は、黒い背景と限られた色彩で描かれた小さな作品です。
縦約32センチ、横約25センチ。暗闇に浮かぶ骸骨の口元には、今にも燃え尽きそうな一本のタバコがくわえられています。
(文:Indiebase編集部)
