Indiebase編集部です。
暗闇の中に浮かび上がる、一人の男性。青い衣をまとい、右手を上げて祝福の仕草を見せています。左手には、透き通った水晶の球体が握られています。
この人物はイエス・キリスト。作品名の『サルバトール・ムンディ』は、ラテン語で「世界の救世主」を意味します。
1500年頃に制作されたと考えられるこの絵画は、レオナルド・ダ・ヴィンチの作品として2017年に競売にかけられ、約4億5,030万ドル(当時約508億円)という驚異的な価格で落札されました。
しかし、その華々しい記録の裏には、美術史上でも異例の謎が隠されています。
508億円で落札。美術品の競売史上最高額を記録
2017年11月15日、ニューヨークのクリスティーズで行われたオークション。
『サルバトール・ムンディ』の落札価格は、手数料込みで4億5,031万2,500ドルに達しました。
これは絵画だけでなく、美術品全体の公開オークションにおける史上最高額です。
なぜ、これほどの価格がついたのでしょうか。
最大の理由は、レオナルド・ダ・ヴィンチの作品とされたことです。
『モナ・リザ』や『最後の晩餐』で知られるダ・ヴィンチですが、現存する絵画は非常に少なく、その多くは美術館に収蔵されています。
個人が購入できる可能性のある作品が市場に現れること自体、極めて珍しい出来事でした。
かつては約1,000ドル。失われた名画の数奇な運命
この絵画の来歴には、さらに驚くべきエピソードがあります。
長い間、作品はダ・ヴィンチ本人ではなく、弟子や後世の画家によるものと考えられていました。
1958年にはロンドンの競売で、わずか45ポンドで落札されています。
その後、2005年にアメリカの美術商らが購入。汚れや過去の加筆に覆われていた作品は、長期にわたる修復と調査を経て、ダ・ヴィンチの真筆として紹介されるようになりました。


2011年にはロンドンのナショナル・ギャラリーで開催されたダ・ヴィンチ展にも出品されています。
ただし、ダ・ヴィンチ本人が描いた作品なのかについては、現在も専門家の意見が分かれています。
本人による制作とする研究者がいる一方、工房の関与が大きいと考える研究者もいます。
水晶の球体に隠された謎と、落札後の行方
この作品で特に注目されるのが、キリストの左手にある透明な球体です。

球体は世界や宇宙を象徴すると考えられています。
ところが、球体の向こうに見える衣服は、通常のガラス球を通したときのようには大きく歪んでいません。
光学にも精通していたダ・ヴィンチが、なぜこのように描いたのか。
宗教的な意味を優先した表現なのか、それとも別の意図があったのか。球体の描写は、作品をめぐる議論のひとつとなっています。
さらに謎めいているのが、落札後の行方です。
2017年の落札後、作品はアブダビのルーヴル・アブダビで公開される予定でしたが、展示は延期されました。
その後も一般公開されておらず、2026年現在、作品の保管場所や今後の公開予定について、確定的な情報は明らかになっていません。
世界で最も高額な絵画として知られながら、その真贋には議論が残り、実物を見ることもできない。
『サルバトール・ムンディ』は、作品の価値とは何によって決まるのかという問いを、私たちに突きつけています。
(文:Indiebase編集部)
