Indiebase編集部です。
暗い海の上に浮かぶ、巨大な白い影。
翼を広げた鳥のようにも、空を覆う雲のようにも見えます。
アメリカ生まれの画家ライオネル・ファイニンガーが描いた『バード・クラウド』(1926年、ハーバード大学美術館群・ブッシュ・ライジンガー美術館所蔵)。
実はこの画家、雲に夢中になるあまり、妻への手紙にまでそのことを書き残していました。
「ここ数日、雲ばかり描いている」
1922年9月、バルト海沿岸に滞在していたファイニンガーは、妻ユリアに手紙を送りました。
そこには、海の上に広がる巨大な雲や、光の美しさについて興奮気味に記されていました。
翌日の手紙には、こんな言葉も残しています。
「ここ数日、雲ばかり描いている」
ファイニンガーは海辺で見た雲を何度もスケッチし、その形や光の変化を追い続けました。
空に浮かぶ雲は、風によって絶えず姿を変えていきます。
その一瞬の形を、画家は何とか絵の中にとどめようとしていたのでしょう。
鳥なのか、雲なのか?
『バード・クラウド』の原題は、ドイツ語で「Vogelwolke」。直訳すると「鳥雲」です。
しかし、この作品には「Wolke nach dem Sturm」という別題もあります。
意味は「嵐の後の雲」。
そう考えると、巨大な白い影は、嵐が過ぎ去った空に現れた雲のようにも見えてきます。
翼のように広がる白い部分。その下に伸びる鋭い光。
鳥の姿を探しているうちに、いつの間にか空全体が巨大な生き物のように感じられます。

空をガラスのように砕いた画家
ファイニンガーは、1919年に設立された美術・デザイン学校「バウハウス」で教鞭を執った画家でもあります。

彼の絵の特徴は、風景を鋭い直線や幾何学的な形に分解すること。
この作品でも、空や光がまるでステンドグラスの破片のように描かれています。
しかし、その出発点にあったのは、難しい美術理論だけではありません。
海辺で空を見上げ、何日も雲を描き続けた一人の画家。
ファイニンガーが見つめ続けた雲は、やがて空を飛ぶ巨大な鳥のような姿になったのです。
(文:Indiebase編集部)