Indiebase編集部です。
今日紹介するのは、ベルギーの画家ジェームズ・アンソールが1899年に描いた『仮面の中の自画像』。不気味な笑みを浮かべる顔、骸骨、奇妙に歪んだ表情の数々。画面を埋め尽くす仮面の群れの中で、ただ一人、こちらを静かに見つめる男性がいます。
赤い帽子をかぶったこの人物こそ、画家アンソール本人です。
しかし、なぜ自分の肖像画を、これほど異様な顔に囲まれた姿で描いたのでしょうか。
仮面の正体は、自分を理解しない人々だった?
アンソールは1860年、ベルギーの港町オーステンデに生まれました。実家は土産物店を営んでおり、カーニバル用の仮面や珍しい品々を扱っていました。
幼い頃から見慣れていた仮面は、やがて彼の絵画を象徴する存在になります。
ただし、描かれた仮面は単なる祭りの道具ではありません。
アンソールは当時の美術界で十分に理解されず、自らが参加した前衛芸術家グループ「二十人会」の仲間とも対立しました。
そのため、この絵で画家を取り囲む仮面は、彼を批判し、理解しようとしなかった人々を象徴していると解釈されています。
笑っているようで、どこか悪意を感じさせる顔。アンソールは、人間が仮面の下に隠している偽善や醜さを描こうとしたのです。
実は自分も「仮面」をかぶっている?
もう一つ興味深いのが、アンソール自身の姿です。
周囲の仮面とは対照的に、画家だけが落ち着いた表情をしています。しかし、その服装と構図には、17世紀フランドル絵画の巨匠ルーベンスの自画像を思わせる特徴があります。

つまり、アンソールは自分を偉大な画家のように演出しているのです。
他人の偽善を暴く一方で、自分自身もまた、理想の姿という「仮面」をまとっているのではないか。
そう考えると、この作品は単純な自己賛美でも、周囲への批判だけでもない、複雑な自画像に見えてきます。

日本にある、アンソールの代表作
アンソールは仮面だけでなく、骸骨や死神なども好んで描きました。奇怪な姿を通じて、人間社会の滑稽さや残酷さを風刺したのです。

『ニシンをめぐって争う骸骨』
生前の後半には評価が高まり、現在ではベルギー近代美術を代表する画家の一人とされています。
『仮面の中の自画像』は、愛知県小牧市のメナード美術館が所蔵しています。
画面の中で、こちらを見つめるアンソール。周囲の仮面たちが異様であればあるほど、彼の顔だけが本物に見えてきます。
けれども、その顔さえ一種の仮面なのだとしたら、この絵の中で本当の顔を見せているのは、いったい誰なのでしょうか。
(文:Indiebase編集部)