
Indiebase編集部です。
薄暗い部屋のベッドに、裸の少女がうつ伏せで横たわっています。少女は不安そうな表情でこちらを見つめ、その背後には黒い服をまとった不気味な人物が座っています。
壁には奇妙な光が浮かび、部屋全体が紫色に染まっています。この黒い人物は、一体何者なのでしょうか。
フランスの画家ポール・ゴーギャンが1892年に描いた『死霊が見ている』(Manao tupapau)。南太平洋のタヒチで制作された、ゴーギャンの代表的な作品のひとつです。
少女が恐れているのは、死者の霊だった
絵のモデルは、ゴーギャンがタヒチで一緒に暮らしていた少女テハーマナ(テフラとも呼ばれる)とされています。
ゴーギャン自身の説明によれば、ある晩、外出先から帰宅すると、少女が暗い部屋で怯えていたといいます。ゴーギャンは、彼女が暗闇に死者の霊を感じていたと解釈しました。
絵の左奥に座る黒い人物は、その死霊を表していると考えられています。
ただし、これはゴーギャンが語った制作背景であり、少女本人が実際に何を恐れていたのかは分かっていません。
「死霊が見ている」か、「少女が死霊を見ている」か
作品の原題は、タヒチ語の「Manao tupapau」です。
興味深いのは、この言葉に複数の解釈があることです。ゴーギャンは、死霊が少女を見ているとも、少女が死霊を見ているとも受け取れる題名として説明しています。
つまり、絵の中で誰が誰を見ているのか、あえて曖昧にされているのです。
少女の視線は鑑賞者の方へ向けられ、背後の黒い人物は静かに座っています。壁に散らばる光のような形も、ゴーギャンは霊的な存在を暗示するものとして説明しました。

モデルはまだ10代だった
この作品には、現在の視点から見逃せない背景もあります。
ゴーギャンは1891年にタヒチへ渡り、現地の少女テハーマナと暮らし始めました。彼女は当時13歳前後だったと伝えられています。
ゴーギャンはタヒチの文化や信仰に強く関心を持ちましたが、その作品には、植民地支配下の社会におけるヨーロッパ人男性と現地女性の不平等な関係も反映されています。
『死霊が見ている』は、現在ニューヨーク州バッファローのバッファローAKG美術館に所蔵されています。
(文:Indiebase編集部)
