CULTURE

レンブラント「ゼウクシスとしての自画像」とは?醜い老婆を描いて笑い死にした画家の伝説

Indiebase編集部です。

暗闇の中から、一人の老人が顔をのぞかせています。

深いしわが刻まれた顔、たるんだ頬、そして大きく開いた口。老人は何かを見て笑っているようですが、その表情はどこか不気味にも見えます。

オランダの画家レンブラント・ファン・レインが描いた『ゼウクシスとしての自画像』(1663年頃、ヴァルラフ=リヒャルツ美術館所蔵)は、画家自身をモデルにした謎めいた作品です。

この笑顔には、古代ギリシャの画家が笑いすぎて死んだという奇妙な伝説が関係していると考えられています。

醜い老婆を描いて笑い死にした画家

ゼウクシスは、紀元前5世紀頃に活躍した古代ギリシャの画家です。

写実的な表現で知られ、描いたブドウを本物と間違えた鳥がついばもうとしたという逸話でも有名です。

しかし、彼にはさらに奇妙な死の伝説が残されています。

あるとき、ゼウクシスは一人の醜い老婆の肖像画を描くことになりました。

ところが、老婆の姿があまりにも滑稽だったため、描きながら笑いが止まらなくなり、ついには笑い死にしてしまったというのです。

レンブラントは、このゼウクシスに自分自身を重ねたと解釈されています。

暗闇の中に隠された人物

この作品をよく見ると、左端の暗闇にもう一人の人物らしき姿が浮かんでいます。

レンブラントが笑っているのは、この人物を見ているからなのでしょうか。

左側の人物をゼウクシスが描いた老婆と考える説がある一方、古代ギリシャの哲学者ヘラクレイトスとする解釈もあります。

ヘラクレイトスは「泣く哲学者」として知られ、対照的な「笑う哲学者」デモクリトスと組み合わせて描かれることがありました。

そのため、レンブラント自身がデモクリトスに扮しているという説もあります。

老いた自分を笑ったレンブラント

レンブラントは生涯にわたり、数多くの自画像を残しました。

『売春宿の放蕩息子』(1635年頃)

『自画像』(1658年)

若い頃には豪華な衣装をまとった姿も描きましたが、晩年には老いた顔や深いしわを隠さず表現しています。

この作品でも、厚く塗り重ねた絵の具によって、老人の肌や表情が生々しく描かれています。

レンブラントが本当にゼウクシスを演じていたのか、それとも老いた自分自身を笑っていたのか、答えはわかっていません。

暗闇から浮かび上がる老人の笑顔は、制作から350年以上が過ぎた現在も、美術史家たちの議論を呼び続けています。

(文:Indiebase編集部)


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