Indiebase編集部です。
二体の骸骨が向かい合い、一匹の細長い魚を口にくわえて引っ張り合っています。
左の骸骨は赤い服、右の骸骨は緑の服に大きな黒い帽子。まるで綱引きのように、互いに魚を譲ろうとしません。
ベルギーの画家ジェームズ・アンソールが描いた『ニシンを奪い合う骸骨たち』(1891年、ベルギー王立美術館所蔵)は、奇妙なユーモアに満ちた作品です。
実は、このニシンは画家自身を、二体の骸骨は彼を批判した美術評論家たちを表しています。
骸骨たちが奪い合う魚の正体
作品に描かれているのは、燻製ニシンです。
フランス語で燻製ニシンは「hareng saur(アラン・ソール)」と呼ばれます。
この言葉は「art Ensor(アンソールの芸術)」と発音が似ており、言葉遊びになっています。
つまり、骸骨たちが引っ張り合っている魚は、アンソール自身の芸術を象徴しているのです。
二体の骸骨は、アンソールの作品を厳しく批判したエドゥアール・フェティスとマックス・ズルツベルガーという評論家を表しているとされています。
アンソールは、自分の芸術が批評家たちによって引き裂かれる様子を、滑稽な光景に置き換えました。
批評家たちへの怒りと風刺
アンソールは1860年、ベルギーの海辺の町オステンドに生まれました。
実家は土産物や仮面を扱う店を営んでおり、幼い頃から奇妙な仮面やカーニバルの文化に親しんでいました。
画家となったアンソールは、骸骨や仮面、怪物を登場させた独特の作品を制作します。
しかし、その奇抜な表現は当時の美術界で理解されず、批評家たちから厳しい評価を受けることもありました。
アンソールは、そうした批判への怒りを、骸骨たちの滑稽な争いとして描いたのです。
わずか16センチの風刺画

この作品は、縦16センチ、横21.5センチほどの小さな油彩画です。
アンソールは、死の象徴である骸骨を恐ろしい存在としてではなく、人間の愚かさを笑うための道具として描きました。
骸骨や仮面を用いた風刺表現は、後の表現主義やシュルレアリスムにもつながるものとして評価されています。
魚を奪い合う二体の骸骨。しかし、死んでいる彼らには、食べ物など必要ありません。
互いに引っ張り合っているのは、アンソール自身の芸術なのです。
(文:Indiebase編集部)
