CULTURE

フュースリー『夢魔』とは?眠る女性の胸に悪魔が座る、18世紀の衝撃的な絵画

Indiebase編集部です。

薄暗い寝室で、白いドレスをまとった女性がベッドに横たわっています。その胸の上には、不気味な小さな怪物。さらに、暗いカーテンの奥からは、白い目をした馬が顔をのぞかせています。

スイス出身の画家ヨハン・ハインリヒ・フュースリーが1781年に描いた『夢魔』(The Nightmare)は、西洋美術史に残る恐怖絵画のひとつです。

女性を苦しめる怪物は何者なのか。そして、なぜ寝室に馬が現れているのでしょうか。

女性の胸に座る怪物の正体

女性の胸の上にいる怪物は、「インキュバス」と呼ばれる男性の夢魔と考えられています。ヨーロッパの民間伝承では、眠っている人のもとを訪れ、悪夢や息苦しさをもたらす存在として知られていました。

この絵は、眠っている最中に体が動かなくなり、胸を押さえつけられるように感じる「金縛り」を連想させます。現代では睡眠麻痺と呼ばれる現象ですが、かつては悪霊の仕業と考えられることもありました。

また、カーテンの奥から現れる馬も印象的です。英語の「Nightmare」は悪夢を意味しますが、馬を意味する「mare」との言葉遊びが、この奇妙な構図に関係しているとも解釈されています。ただし、悪夢を意味する「nightmare」の語源が馬というわけではありません。

発表当時から人々を魅了した恐怖絵画

『夢魔』は1782年、ロンドンのロイヤル・アカデミー展に出品され、大きな注目を集めました。

当時の絵画では、神話や歴史、宗教などを題材とする作品が一般的でした。しかし、フュースリーは眠る女性の悪夢という、目に見えない恐怖を大胆に描き出しました。

作品は版画としても広まり、フュースリーの代表作となります。その不気味な構図は、後のロマン主義や幻想美術にも影響を与えました。

200年以上前に描かれた、ホラーの原点

『夢魔』が恐ろしいのは、怪物が女性を襲う瞬間ではなく、すでに胸の上に座っていることです。女性は抵抗することもできず、怪物はまるで鑑賞者を見つめるようにこちらを向いています。

暗闇から現れる異形の存在、逃げられない悪夢、眠っている間に襲われる恐怖。こうした表現は、現代のホラー映画やゲームにも通じるものがあります。

1781年に描かれた『夢魔』は、人間が眠りの中で感じる根源的な恐怖を、200年以上前に視覚化した作品なのです。

(文:Indiebase編集部)


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