CULTURE

ゴヤ『精神病院の中庭』とは?画家が実際に目撃した、18世紀の精神病院の恐ろしい光景

Indiebase編集部です。

薄暗い中庭で、裸の男たちが取っ組み合っています。

周囲には叫ぶように両手を上げる男や、うずくまる人々。そして、争う男たちに鞭を振るう看守の姿も。

スペインの画家フランシスコ・デ・ゴヤが描いた『精神病院の中庭』(1794年、アメリカ・ダラスのメドウズ美術館所蔵)。

実はこの絵、ゴヤ自身が実際に目撃した光景をもとに描かれています。

ゴヤが目撃した、精神病院の中庭

1794年1月7日、ゴヤはベルナルド・デ・イリアルテに宛てた手紙で、この作品について説明しています。

そこには、裸の男2人が争い、看守が彼らを鞭で打ち、周囲には粗末な衣服をまとった人々がいると記されていました。

そしてゴヤは、これがサラゴサで自分の目にした光景だと明言しています。

舞台は、サラゴサにあったヌエストラ・セニョーラ・デ・グラシア病院ではないかと考えられています。

光が差し込んでも、逃げ場はない

画面中央では、2人の男が激しく組み合っています。

その姿は、古代ギリシャ・ローマの格闘彫刻を思わせます。

しかし、ここは競技場ではありません。

周囲の人々は壁に囲まれ、看守による暴力にさらされています。

画面上部からは強い光が差し込んでいますが、足元は深い闇に沈んでいます。

明るい空が見えているのに、そこから出ることはできない。

この極端な明暗が、中庭の閉塞感を際立たせています。

聴力を失ったゴヤが描いたもの

この作品が生まれる少し前、ゴヤは重い病に倒れ、聴力を失いました。

それまで宮廷画家として王侯貴族の肖像画を描いてきた彼は、病後、注文に縛られない小さな絵画にも取り組むようになります。

その題材には、難破船、火災、牢獄、そして精神病院など、人間の苦しみや恐怖を描いたものがありました。

『精神病院の中庭』も、その一枚です。

ゴヤはこの絵で、当時の精神を患う人々が置かれていた過酷な環境を描き出しました。

後に『我が子を食らうサトゥルヌス』などの暗い作品を生み出す画家の、重要な転換期を示す一枚でもあります。

(文:Indiebase編集部)


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