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アメリカの大統領選挙で、たびたび注目される「福音派(エヴァンジェリカル)」という言葉。
特にドナルド・トランプ大統領を支持する宗教勢力として知られ、アメリカの政治や社会を理解するうえで欠かせない存在となっています。
しかし、そもそも福音派とはどのような人々なのでしょうか。一般的なキリスト教徒とは何が違い、なぜ保守的な政治勢力と結びついているのでしょうか。
実は、福音派は特定の教会や宗派の名前ではありません。聖書の権威や個人の信仰、伝道活動を重視する、プロテスタントを中心としたキリスト教の大きな潮流です。
今回は、福音派の意味や歴史、信仰の特徴、アメリカ政治との関係、そして日本の福音派について、初心者にもわかりやすく解説します。
福音派とは?キリスト教のなかでどんな存在?
福音派とは、聖書を信仰の中心に置き、イエス・キリストへの個人的な信仰と、キリスト教の教えを広める伝道活動を重視するキリスト教の潮流です。
英語では「Evangelical(エヴァンジェリカル)」と呼ばれます。
「福音」とは、もともと「良い知らせ」を意味する言葉です。キリスト教では、イエス・キリストによる救いの知らせを指します。
福音派は、この福音を信じ、ほかの人々にも伝えることを重要な使命と考えています。
ただし、福音派という名称の単一の教会が存在するわけではありません。
バプテスト派、メソジスト派、長老派、ペンテコステ派など、さまざまな教派のなかに福音派の信仰を持つ人々がいます。
福音派が重視する4つの特徴
福音派の特徴を理解するうえで参考になるのが、歴史家デイヴィッド・ベビントンが示した4つの要素です。
1. 聖書の権威を重視する
福音派は、聖書を信仰と生活の重要な基準と考えます。
聖書を神の言葉として重視する点が特徴ですが、すべての福音派が聖書のあらゆる記述を文字どおりに解釈しているわけではありません。
2. 個人的な回心を重視する
福音派では、本人がイエス・キリストを信じ、信仰によって人生が変えられる経験を重視します。
アメリカでは、こうした信仰体験に関連して「ボーン・アゲイン(Born Again/新生)」という表現が使われます。
3. イエス・キリストの十字架を重視する
イエス・キリストの十字架上の死と復活によって、人間に救いがもたらされるという信仰を中心に置きます。
4. 伝道や信仰に基づく活動を重視する
福音派は、信仰を個人の内面だけにとどめず、伝道や宣教、社会活動などを通して実践することを重視します。
この4つの特徴は、福音派を理解するための代表的な枠組みとして知られています。
福音派とプロテスタントの違い
福音派とプロテスタントは、同じ意味ではありません。
プロテスタントとは、16世紀の宗教改革から生まれたキリスト教の大きな潮流です。
ルター派、改革派、バプテスト派、メソジスト派など、多様な教派が含まれます。
一方、福音派は、主にプロテスタントのなかで、聖書の権威や個人的な回心、伝道を特に重視する人々を指します。
つまり、福音派の多くはプロテスタントですが、プロテスタントのすべてが福音派というわけではありません。
福音派とカトリックの違い
カトリックと福音派の違いは、教会の権威や信仰のあり方などにあります。
カトリック教会は、ローマ教皇を中心とする教会組織を持ち、聖書と聖伝、教会の教導権を重視します。
一方、プロテスタントを中心とする福音派は、聖書を信仰の最も重要な権威として位置づけ、個人がイエス・キリストを信じることを強調します。
ただし、イエス・キリストを救い主と信じることや、その死と復活を重視することは、カトリックと福音派に共通しています。
福音派の歴史|どのように広がったのか?
福音派の歴史は、18世紀のイギリスや北米で起こった宗教的な覚醒運動と深く関係しています。
18世紀の大覚醒運動
18世紀の北米では、「第一次大覚醒」と呼ばれる宗教復興運動が広がりました。
この運動では、形式的に教会へ通うことよりも、個人が信仰に目覚め、神との関係を新たにすることが重視されました。
代表的な人物には、ジョナサン・エドワーズやジョージ・ホウィットフィールドがいます。

彼らの説教は多くの人々に影響を与え、後のアメリカ福音派の形成につながりました。
19世紀の宗教復興と伝道活動
19世紀のアメリカでは、第二次大覚醒と呼ばれる宗教復興運動が広がりました。
大規模な集会や巡回説教を通じて、個人の回心や信仰生活の重要性が説かれました。
また、福音派の人々は海外宣教にも積極的に取り組み、アジアやアフリカなど世界各地にキリスト教を広めていきました。
一部の福音派は奴隷制廃止や社会改革にも関わりましたが、奴隷制を擁護したキリスト教徒も存在しており、政治的・社会的な立場は一様ではありませんでした。
20世紀の福音派と原理主義
20世紀初頭のアメリカでは、聖書の解釈や進化論、近代的な神学をめぐって、キリスト教内部で対立が深まりました。
このなかで、聖書の権威や伝統的な教義を強く守ろうとするキリスト教原理主義が登場しました。
その後、1940年代以降には、原理主義の孤立主義的な傾向から距離を置き、社会や学問との対話を重視する新福音主義の運動が発展します。
この時代を代表する人物が、世界的な伝道者ビリー・グラハムです。

グラハムは大規模な伝道集会やテレビ放送などを通じて、多くの人々に影響を与えました。
なぜアメリカの福音派はトランプを支持するのか?
現代のアメリカで福音派が注目される大きな理由の一つが、政治との関係です。
特に白人福音派プロテスタントは、共和党の重要な支持基盤となっています。
2016年、2020年、2024年の大統領選挙でも、白人福音派の有権者はドナルド・トランプを強く支持しました。
しかし、なぜ宗教的な価値観を重視する人々が、トランプを支持するのでしょうか。
理由1:人工妊娠中絶への反対
アメリカの保守的な福音派にとって、人工妊娠中絶は重要な政治的争点です。
多くの保守的な福音派は、胎児の生命を守るべきだという宗教的・倫理的な立場から、中絶に反対しています。
トランプは大統領在任中、保守派の連邦最高裁判事を3人指名しました。
その後、2022年に連邦最高裁判所は、人工妊娠中絶の権利を憲法上保障するとしてきた「ロー対ウェイド判決」を覆しました。
この出来事は、中絶反対運動を続けてきた保守的な福音派にとって大きな政治的成果となりました。
理由2:保守的な家族観や社会的価値観
保守的な福音派の多くは、伝統的な結婚観や家族観を重視しています。
同性婚やジェンダーに関する政策などをめぐって、リベラル派と対立することもあります。
共和党は、こうした保守的な価値観を重視する有権者から支持を集めてきました。
ただし、福音派のすべてが同性婚や性的少数者の権利に反対しているわけではありません。
理由3:宗教的自由と保守派判事の任命
アメリカでは、宗教的自由をどのように保障するかも重要な政治問題です。
保守的な福音派のなかには、宗教的信念に基づく学校運営や事業活動などが、政府の政策によって制限されることを懸念する人々がいます。
トランプは、宗教的自由の保護を掲げ、保守派の裁判官を多数任命しました。
こうした政策も、福音派の支持を集めた要因の一つです。
理由4:イスラエルへの支持
アメリカの福音派の一部には、イスラエル国家を宗教的な観点から強く支持する人々がいます。
特に「キリスト教シオニズム」と呼ばれる立場では、イスラエルの存在を聖書の預言や終末論と結びつけて理解することがあります。
トランプ政権は2017年にエルサレムをイスラエルの首都として承認し、2018年にはアメリカ大使館をテルアビブからエルサレムへ移転しました。
こうした政策は、イスラエルを重視する福音派の一部から歓迎されました。
ただし、福音派全体が同じ終末論やイスラエル観を持っているわけではありません。
福音派は全員トランプ支持なのか?
福音派のすべてがトランプを支持しているわけではありません。
特にアメリカでは、人種や世代、教派によって政治的な傾向が異なります。
白人福音派プロテスタントは共和党支持の傾向が強い一方、黒人プロテスタントの多くは民主党を支持してきました。
また、福音派のなかにも、移民政策や貧困問題、人種差別、環境問題などを重視し、トランプの政治姿勢に批判的な人々がいます。
そのため、「福音派=トランプ支持者」と考えるのは正確ではありません。
福音派とキリスト教右派の違い
福音派と混同されやすい言葉に「キリスト教右派」があります。
キリスト教右派とは、キリスト教の保守的な価値観を政治に反映させようとする運動や勢力を指します。
特にアメリカでは、1970年代後半から1980年代にかけて、保守的なキリスト教徒による政治運動が影響力を強めました。
代表的な運動の一つが、牧師ジェリー・ファルウェルらが関わった「モラル・マジョリティ(道徳的多数派)」です。
この運動は、人工妊娠中絶への反対や伝統的な家族観の擁護などを掲げ、共和党との結びつきを強めました。
福音派が宗教的な信仰の特徴を表す言葉であるのに対し、キリスト教右派は政治的な立場や運動を表す言葉です。
両者には大きな重なりがありますが、同じ意味ではありません。
キリスト教右派には保守的なカトリック信徒なども含まれ、福音派のなかにも政治的にリベラルな人々が存在します。
日本にも福音派は存在する?
福音派はアメリカだけの宗教運動ではありません。
日本にも、福音派の信仰を持つプロテスタント教会や団体が存在しています。
代表的な組織の一つが、日本福音同盟(JEA)です。
日本福音同盟は、福音派の教会や団体、個人などが協力し、宣教活動や社会的な課題への取り組みを進めるための組織です。
ただし、日本の福音派とアメリカの福音派では、政治的・社会的な状況が大きく異なります。
アメリカでは福音派が大統領選挙の重要な支持基盤として注目されますが、日本では同じような規模の政治勢力を形成しているわけではありません。
また、福音派の信仰を持つ教会であっても、政治的な立場はそれぞれ異なります。
福音派についてよくある質問
福音派を簡単に一言でいうと?
聖書の権威、イエス・キリストへの個人的な信仰、回心、伝道活動などを重視するキリスト教の潮流です。主にプロテスタントのなかに広がっています。
福音派はキリスト教の宗派なの?
福音派は、カトリックやルター派のような単一の教会組織や宗派ではありません。さまざまなプロテスタント教派にまたがる信仰上の潮流です。
福音派とキリスト教原理主義は同じ?
同じではありません。両者は聖書の権威や伝統的な教義を重視する点で共通しますが、20世紀の新福音主義は、原理主義の分離主義的な姿勢から距離を置き、社会や学問との対話を重視しました。
福音派はなぜトランプを支持するの?
特に白人福音派プロテスタントの間では、人工妊娠中絶への反対、保守的な家族観、宗教的自由、保守派判事の任命などが支持の背景にあります。ただし、福音派全体がトランプを支持しているわけではありません。
福音派と統一教会は同じ?
同じではありません。福音派はプロテスタントを中心とするキリスト教の潮流です。一方、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)は、文鮮明が創始した独自の教義を持つ宗教団体であり、一般的な福音派プロテスタントとは区別されます。
福音派を理解することはアメリカ社会を理解することにつながる
福音派は、聖書の権威や個人的な信仰、伝道活動を重視するキリスト教の大きな潮流です。
18世紀の宗教復興運動などを背景に発展し、現在ではアメリカだけでなく、世界各地に信仰を持つ人々が存在しています。
特にアメリカでは、保守的な白人福音派が共和党の重要な支持基盤となり、人工妊娠中絶や宗教的自由、イスラエル政策などをめぐって政治に影響を与えてきました。
一方、福音派は決して一枚岩ではありません。教派や人種、地域によって信仰の実践や政治的な立場は異なります。
アメリカ政治を理解する際には、福音派という宗教的な潮流と、キリスト教右派という政治運動を区別して考えることが重要です。
