Indiebase編集部です。
三日月が浮かぶ夜空の下、巨大な黒い山羊を囲んで、奇妙な人々が集まっています。
山羊は人間のように座り、長い角には葉のついた枝が絡みついています。その周囲には、赤ん坊を抱く女性や、地面にひざまずく人物たち。上空にはコウモリが飛び交い、地面には幼い子どもの亡骸らしき姿も見えます。
スペインの画家フランシスコ・デ・ゴヤが描いた『魔女の夜宴』(1797〜1798年頃、ラサロ・ガルディアーノ美術館所蔵)は、魔女たちが悪魔を崇拝する集会を描いた作品です。
しかし、ゴヤが描こうとしたのは、単なる恐ろしい魔女の物語だけではありませんでした。
巨大な黒い山羊の正体
絵の中央に座る黒い山羊は、悪魔を象徴する存在です。
ヨーロッパの魔女信仰では、魔女たちは夜になると秘密の集会「サバト」を開き、山羊の姿をした悪魔を崇拝すると信じられていました。
ゴヤは、この迷信を不気味な儀式として描いています。
山羊の周囲には年老いた女性や若い女性が集まり、赤ん坊を差し出しているように見える人物もいます。
当時の魔女伝説には、悪魔への生贄として子どもを捧げるという恐ろしい話もありました。
ゴヤは、こうした人々の恐怖や想像から生まれた魔女の世界を描き出したのです。
魔女信仰と迷信への風刺

18世紀末のスペインでは、啓蒙思想が広まりつつある一方、魔女や悪魔に関する迷信も根強く残っていました。
ゴヤは、人間の無知や迷信、宗教的な狂信を批判的に描いた画家として知られています。
1799年に発表した版画集『ロス・カプリチョス』にも、魔女や怪物、奇妙な儀式が数多く登場します。
なかでも有名なのが『理性の眠りは怪物を生む』です。

机に伏せて眠る人物の周囲に、フクロウやコウモリが群がるこの作品は、理性を失った人間が迷信や恐怖に支配されることを象徴しています。
『魔女の夜宴』にも、そうしたゴヤの批判的な視点が重ねられています。
ゴヤが繰り返し描いた魔女の世界
ゴヤは1790年代後半、魔女や悪魔を題材にした一連の絵画を制作しました。
その中には、空を飛ぶ魔女たちが男性を運ぶ『魔女たちの飛翔』なども含まれています。

また、晩年には同じく『魔女の夜宴』と呼ばれる、巨大な黒い山羊が群衆と向き合う別の作品も描きました。

こちらは「黒い絵」と呼ばれる連作の一つで、さらに暗く不気味な雰囲気を持っています。
今回の『魔女の夜宴』では、山羊の周囲に集まる人々が、恐怖に怯えるというよりも、儀式に夢中になっているように見えます。
その異様な光景には、悪魔そのものの恐ろしさだけでなく、迷信を信じ込む人間たちへのゴヤの冷ややかな視線が感じられます。
(文:Indiebase編集部)
