Indiebase編集部です。
暗い森の中、一人の男性が閉ざされた扉の前に立っています。
頭には茨の冠、背後には光輪。左手にはランタンを持ち、右手で扉を叩こうとしています。

イギリスの画家ウィリアム・ホルマン・ハントが描いた『世の光』(1851〜1853年、オックスフォード大学キーブル・カレッジ所蔵)。
描かれているのはイエス・キリストです。
しかし、この絵には奇妙な点があります。
キリストが叩いている扉には、外側から開けるための取っ手がありません。
なぜ扉には取っ手がないのか
『世の光』は、新約聖書の「ヨハネの黙示録」第3章20節に着想を得た作品です。
そこには、戸口に立って扉を叩き、開けてくれる者のもとへ入るというキリストの言葉が記されています。
ハントは、この場面を象徴的な絵画にしました。
扉が表しているのは、人間の心です。
取っ手が外側にないのは、本人が内側から開けなければ、キリストも入ることができないという意味です。
扉の周囲には雑草が生い茂り、長い間開かれていないことがうかがえます。
キリストは扉を壊すことなく、静かに返事を待っています。
ランタンと茨の冠に込められた意味

キリストが手にしているランタンは、暗闇を照らす光の象徴です。
作品の題名『世の光』は、ヨハネによる福音書に登場するキリストの言葉にも由来しています。
頭の茨の冠は、十字架刑の際に受けた苦難を示すものです。
さらに、その上には王冠が重ねられ、キリストの王としての姿も表現されています。
暗い背景と、ランタンに照らされた衣服や顔の対比も印象的です。
ラファエル前派を代表する宗教画
ハントは1848年に結成されたラファエル前派の創設メンバーの一人です。
自然の細部を丹念に観察し、宗教的な主題を鮮明な色彩と写実的な描写で表現しました。
『世の光』は、発表後に大きな反響を呼び、ハントは後年、同じ主題の別バージョンも制作しています。
なかでも晩年の作品は、ロンドンのセント・ポール大聖堂に収められています。
最初の作品が描かれてから170年以上が経ちますが、絵の中の扉は閉じたままです。
取っ手がない以上、キリストは扉の向こうにいる誰かが開けるのを待つしかありません。
(文:Indiebase編集部)
