Indiebase編集部です。
江戸時代の浮世絵師・歌川国芳が描いた『相馬の古内裏』(1844〜1845年頃)。暗闇の中から巨大な骸骨が姿を現し、崩れかけた御殿の中にいる武者たちを襲おうとしています。
骸骨の大きさは人間の何倍もあり、画面の右半分を埋め尽くすほど。現代のホラー漫画や怪獣映画を思わせる、強烈な迫力を持った浮世絵です。
しかし、この巨大な骸骨を呼び出したのは、画面左側に立つ一人の女性でした。
父・平将門の復讐を誓った滝夜叉姫
女性の名は滝夜叉姫。平安時代に朝廷へ反乱を起こした武将・平将門の娘として、伝説に登場する人物です。
940年、将門は討伐され、その首は京都でさらされたと伝えられています。
物語では、父の無念を晴らそうとした滝夜叉姫が妖術を身につけ、かつて将門の拠点だった相馬の古内裏に立てこもります。
そこへ討伐のために現れたのが、大宅太郎光国。滝夜叉姫は妖術で骸骨の化け物を呼び出し、光国たちを脅かそうとするのです。
絵の中で巻物を広げているのが滝夜叉姫。巨大な骸骨は、彼女の妖術によって出現した存在なのです。
本来は無数の骸骨だった?
実は、この巨大な骸骨には面白い秘密があります。
国芳が題材にした山東京伝の読本『善知安方忠義伝』では、妖術によって現れるのは多数の骸骨でした。
ところが国芳は、それらを一体の巨大な骸骨として描いたのです。
しかも、単に大きく描いただけではありません。頭蓋骨や肋骨、背骨の構造を細かく描き、まるで本物の人骨が巨大化したような姿に仕上げています。
三枚続きの画面を大胆に使い、骸骨が御殿の闇から飛び出してくるように見せた構図も見事です。

平安時代の伝説を、江戸時代のホラーに
滝夜叉姫の物語は平将門の史実を背景にしていますが、妖術を操る姫や巨大な骸骨が実在したわけではありません。
江戸時代の読本や芝居などを通じて発展した創作の世界です。
国芳は武者絵を得意とし、豪快な構図や奇抜な発想で人気を集めました。『相馬の古内裏』は、その才能が最もよく表れた作品の一つです。
興味深いのは、絵の中の骸骨がまだ誰にも襲いかかっていないことです。
暗闇から巨大な頭を突き出し、武者たちを見下ろしているだけ。それでも、次の瞬間に何が起こるのかを想像せずにはいられません。
江戸時代の浮世絵師が描いた一枚は、180年近く経った今も、見る者を恐怖と興奮の世界へ引き込んでいます。
(文:Indiebase編集部)
