Indiebase編集部です。
薄暗い部屋のベッドに、一人の男が横たわっています。
男の顔は青白く、口を大きく開けています。その背後には、獣のような顔をした不気味な怪物たちが潜んでいます。
右側では、黒い修道服を着た聖職者が十字架を掲げています。よく見ると、十字架にかけられたキリストの体から血が噴き出し、男の方へ降り注いでいます。
スペインの画家フランシスコ・デ・ゴヤが描いた『ボルハの聖フランシスコと悔悛しない瀕死の病人』(1788年、バレンシア大聖堂所蔵)は、死の間際に罪を悔い改めようとしない男と、悪魔たちの恐ろしい姿を描いた宗教画です。
悪魔に取り憑かれた瀕死の男
右側で十字架を掲げているのは、16世紀スペインの聖人フランシスコ・ボルハです。
彼はかつてガンディア公爵だった貴族で、後にイエズス会へ入り、第3代総長を務めました。
この作品では、死に瀕しながらも罪を悔い改めない男を救おうとしています。
しかし、ベッドの背後には異形の悪魔たちが集まり、男の魂を奪おうとしているように見えます。
死の直前まで信仰を拒む人間と、その魂をめぐる善と悪の争いが描かれているのです。
十字架から噴き出すキリストの血

この作品で特に異様なのが、聖フランシスコの掲げる十字架です。
十字架にかけられたキリストの体から、赤い血が勢いよく噴き出しています。
これは、キリストの犠牲によって人間の罪が救われるという、キリスト教の教えを視覚化した表現です。
聖フランシスコは十字架を武器のように掲げ、男に取り憑いた悪魔たちを追い払おうとしています。
しかし、聖人自身の顔にも恐怖が浮かんでいます。
ゴヤが描いた恐ろしい宗教画
この作品は、バレンシア大聖堂の聖フランシスコ・ボルハ礼拝堂のために制作されました。
ゴヤは同じ礼拝堂のために、聖フランシスコが家族に別れを告げる場面も描いています。
後年のゴヤは『魔女の夜宴』や「黒い絵」など、不気味な怪物や人間の恐怖を描いた作品で知られるようになります。
『ボルハの聖フランシスコと悔悛しない瀕死の病人』には、そうした怪奇的な表現がすでに現れています。
ベッドに横たわる男、背後から迫る悪魔たち、そして十字架から噴き出す血。ゴヤは、目には見えないはずの魂の危機を、生々しい恐怖として描き出しました。