Indiebase編集部です。
薄暗い部屋で、青い衣服を着た男性がパンに手を伸ばしています。
周囲には3人の人物が集まり、静かにその様子を見つめています。描かれているのは、復活したイエス・キリストが弟子たちの前に姿を現す聖書の場面です。
オランダの画家ハン・ファン・メーヘレンが描いた『エマオの晩餐』(1937年、ボイマンス・ファン・ベーニンゲン美術館所蔵)は、美術史上最も有名な贋作の一つです。
この絵は発見当時、17世紀の巨匠フェルメールの知られざる傑作として絶賛されました。

しかし、実際には20世紀に描かれた偽物だったのです。
専門家も騙されたフェルメールの新発見
1937年、この作品はフェルメールの未発見作品として美術界に紹介されました。
著名な美術史家アブラハム・ブレディウスも真作と認め、フェルメールの傑作として高く評価します。
翌1938年には、ロッテルダムの美術館が52万ギルダーという巨額を投じて購入しました。
しかし、作者はフェルメールではありませんでした。
メーヘレンは古いキャンバスや絵の具の調合を工夫し、数百年前の絵画に見えるよう巧妙な偽装を施していたのです。
ナチスへの売却から発覚した贋作事件
第二次世界大戦後の1945年、メーヘレンはナチス幹部ヘルマン・ゲーリングにフェルメールの作品を売却した疑いで逮捕されました。
本物の国宝級絵画を敵国に渡したとされれば、重大な罪に問われる可能性がありました。
そこでメーヘレンは驚くべき告白をします。
売った絵は本物ではなく、自分で描いた贋作だというのです。
さらに『エマオの晩餐』も自分の作品だと認めました。
当初は信じられませんでしたが、調査によって贋作であることが明らかになります。

巨匠の作品として絶賛された偽物
メーヘレンは1947年、贋作を売った詐欺行為によって有罪となり、懲役1年を言い渡されました。同年、刑の執行前に亡くなっています。
『エマオの晩餐』は現在も美術館のコレクションに残されています。
かつて専門家たちがフェルメールの傑作と絶賛した絵画。その作者は、彼らの鑑定眼を欺こうとした20世紀の画家でした。


(文:Indiebase編集部)
