ゲーム好きならば、サバイバルホラーの代名詞である『バイオハザード』を知っていることでしょう。初代が発売されてから30年ほどの年月が経ってもなお人気は高く、現在でも新作が制作され続けています。
また、ゲーム版を原作にした映画シリーズも大ヒットを飛ばしました。しかし、映画シリーズが原作を忠実に再現しているかというと、決してそうではありません。むしろ作品の軸を大きく変えたが故に原作ファンからの賛否両論を巻き起こしながらも、独自の路線で人気となったのです。
なぜ映画シリーズは、原作の方向性から逸脱しながらも大きな成功を収めたのでしょうか。この記事で考えていきたいと思います。
「ホラー」か「アクション」か。二つの顔を持つ『バイオハザード』の歩み
まずは、『バイオハザード』シリーズの作品概要について見ていきましょう。原作であるゲーム版と映画版に分けてご紹介していきます。
原作/ゲーム版
ゲーム版の『バイオハザード』第一作は、1996年にPlayStation向け作品として制作、発売されました。「サバイバルホラー」というジャンル名を初めて使用した作品であり、豪華な洋館の中で、襲い来るゾンビたちから生き延びようとする特殊作戦部隊・S.T.A.R.S.隊員の物語が描かれています。
発売当初は売り上げが伸び悩んだものの、徐々にファンを獲得。のちにシリーズ化されるほどの大ヒット作となりました。その後は、ラクーンシティを舞台にした『2』『3』や、アクション性を強めた『4』、シリーズの転換点となった『7』など、作品ごとにゲーム性を大胆に変えながら進化を続けてきました。
ちなみに、初代『バイオハザード』のプロデューサーである三上真司氏は、後に『サイコブレイク』シリーズや『Ghostwire: Tokyo』などのヒット作を手掛けた人物でもあります。

出典:Steam「biohazard HD REMASTER」より
映画版
ゲーム版『バイオハザード』を原作とする映画は複数制作されています。今回は2002年に第一作が公開された、一連の映画シリーズを取り上げていきます。
映画版『バイオハザード』シリーズは、2002年から2017年の間に計6作が制作されました。主演はシリーズを通してミラ・ジョヴォヴィッチ。後に彼女の夫となるポール・W・S・アンダーソンがメガホンを取っています(第2、3作を除く)。
本シリーズはゲーム版を元にしているものの、オリジナル要素が強い作品です。主人公にオリジナルキャラであるアリス・アバーナシーを据え、ストーリーラインもゲームのものとは異なります。本シリーズがゾンビ映画として高い人気を博したのは、こうした変更が功を奏したのかもしれません。

簡単なあらすじ(第一作)
物語の舞台は21世紀初頭。
アンブレラ社の極秘研究所「ハイブ」で、研究中だった生物兵器T‐ウイルスが漏洩する事件が起こった。ハイブの機能を司るAI・レッド・クイーンは、さらなるウイルスの漏洩を防ぐため、感染者であるハイブの研究員たちを全員殺害。アンブレラ社は、レッド・クイーンをシャットダウンするための特殊部隊を派遣した。
主人公のアリスは、ラクーンシティにある豪華な洋館のシャワールームで目が覚めた。これまでの記憶はなく、状況がつかめない。やがて特殊部隊に拘束され、屋敷の地下、ハイブの中へと赴くことになる。
ハイブの中はこの世とは思えない惨状だった。ここから、アリスとアンブレラ社の戦いが始まった。
「絶望からの脱出」と「最強の無双」。相反する二つのアイデンティティ
先述した通り、映画版と原作/ゲーム版にはキャラクターの扱いやストーリーラインなどの相違点があります。しかしそれ以上の大きな違いとして、作品としての「方向性」が挙げられるでしょう。
この項では、原作/ゲーム版と映画版の方向性の違いについて考察していきます。
ゲーム版が追求した「一発の弾丸」の重みと、サバイバルの本質
ゲーム版の『バイオハザード』シリーズの第一作は、サバイバルホラーを確立した名作として知られています。
まずは、サバイバルホラーというジャンルの定義を改めて考えてみましょう。
サバイバルホラーは、超常的な敵から生き延びることを目的としたホラーゲームとして定義されています。閉鎖空間が舞台になることが多く、パズルなどの要素が含まれることも少なくありません。最初にこのジャンル名を使ったのは『バイオハザード』第一作ですが、『アローン・イン・ザ・ダーク』など、本シリーズ以前から同様の特徴を持つ作品はありました。
ゲーム版『バイオハザード』シリーズの第一作は、「恐怖」を重要なテーマとして制作されました。洋館という閉鎖空間の中で得体のしれないものに襲われる恐怖感。思うようにできない焦りが恐怖を増す、現代とは異なる操作性。シリーズ恒例となった、やりごたえがある謎解きの数々。プレイした人の脳裏にこびりついているであろう、ゾンビ犬が飛び出してくるシーン……。
また、ゾンビへの対抗手段の少なさも特徴的です。主人公たちは警察の特殊部隊(S.T.A.R.S.部隊)のため、武器の扱いには慣れています。しかし、弾薬や回復薬といった重要なアイテムの数は限られており、無駄に使うことはできません。対処法が限られるという緊張が恐怖心を煽るうえ、否が応でも「生き残るために試行錯誤する」というサバイバルらしい行動をとることに繋がります。
ゲーム版の第一作は、正に「サバイバルホラーらしさ」を体現した作品だったのです。
そんなゲーム版ですが、シリーズを追うごとにガンシューティングとしての要素が増え、アクション寄りのゲーム性に代わっていきました。そんな中で、2017年にリリースされた『バイオハザード7』は「原点回帰」の役割を担った、恐怖感もサバイバル感もより強い作品となっています。

出典:Steam「BIOHAZARD 7 resident evil」より
アリスという発明。2000年代を象徴する「強すぎる女性像」の台頭
サバイバルホラーからアクションへと、ジャンルの変遷を遂げたゲーム版に比べ、映画版の『バイオハザード』シリーズは終始アクションを強く押し出しています。
本シリーズのアクション要素を担うものと言えば、主人公のアリスが挙げられるでしょう。彼女は元々アンブレラ社所属の特殊部隊員のため、基本的な身体能力や戦闘力に優れています。一作目の最初こそホラー感の強い演出があるものの、すぐにアリスの人並外れた身体能力で難局を切り抜けるシーンに切り替わります。
ミラ・ジョヴォヴィッチは自分でアクションシーンを演じることにこだわり、ごく一部のシーンを除いてスタントマンを使うことはありませんでした。アリスの体に浮かぶアザは本当のものだというエピソードからも、アクションの激しさが分かることでしょう。
また、シリーズを追うごとに、アリスのアクションシーンは激しさを増していきます。高所からバイクに乗って窓を突き破り、教会の中に降り立つシーン。多数のゾンビをどんどんなぎ倒していくシーン。彼女が適合したT-ウイルスの影響から超能力を体得し、サイコキネシスを使った戦闘まで行います。
こうしたアクション要素により、「ホラー」が含まれるジャンルでありながら、本質的な恐怖はありません。アリスが非常に強いため、ゾンビなどものともしないことが見ている側にもすぐ分かるからです。
特に『バイオハザード6』で顕著ですが、ゲーム版もシリーズが進むうちにアクション要素が強くなり、ゾンビなどの敵に対する緊張感が薄れました。しかし、アリスと比べると主人公たちはまだまだ弱く、あくまでも「人間」の域を超えていません。アクションを見せ、アクションで楽しませる映画であるためには、アリスは人間を超越した存在である必要があったのでしょう。
また、アリスの性別が女性であることにも意味があったと考えられます。
従来、ハリウッド映画でヒロイックな役割は男性が担ってきました。『スーパーマン』や『ダイ・ハード』などが分かりやすいでしょう。しかし、『エイリアン』シリーズのリプリーや『ターミネーター』シリーズのサラ・コナーから風向きが変わります。ヒロイックさを持つ女性が受け入れられるようになったのです。
その傾向は、2000年代に入ってより強まりました。ただの「強い女性」ではなく、『トゥーム・レイダー』のララ・クロフトや『マトリックス』シリーズのトリニティなどが代表するように「強すぎる女性」が登場し、人気を博するようになったのです。
なぜこうした女性像が人気になったのでしょうか。それはおそらく、経済的・心理的に自立する女性が増えてきたことや、古くからある女性性に対するイメージの破壊(女性は弱いもの・男性に従うものなど)が関係しているのでしょう。本シリーズの主人公であるアリスもまた、2000年代に生まれたヒロイックな女性像を担っているのです。
女性であるアリスが激しいアクションを行い、その強さが強烈なものであったこと。これこそが本シリーズとゲーム版の大きな相違点であり、ゲームファン以外からの支持を集めた理由なのでしょう。

出典:Apple TV『バイオハザード: ザ・ファイナル』より
映画版がアクション作品に舵を切った理由とは?
サバイバルホラーの代表作である第一作を含むゲーム版シリーズと、最初からアクションを志向した映画シリーズ。監督と脚本の双方を務めたポール・W・S・アンダーソンとミラ・ジョヴォヴィッチは共に原作の大ファンであるにも関わらず、なぜ、大きく方向性を変えたのでしょうか。
ここからは筆者の私見が混ざる考察ではありますが、本シリーズがアクションに舵を切った理由として、原作のゲームで遊んでおらず、普段はホラーにあまり触れることのない人にも見て欲しいという意図が混ざっているからではないでしょうか。
現代でもそうですが、ホラー映画やゲームを好む人は限られています。また、幽霊に比べグロテスクなイメージが付きがちなゾンビというテーマは、より見たり遊んだりする人を選んでしまうことでしょう。
その点、アクションはどうでしょうか。アクションゲームや映画は昔から王道で、愛好家も少なくありません。性別を問わず、アクション映画ばかり見るという人も少なくないはずです。
アクション要素が強くなった結果、本シリーズは「ホラー」というジャンルに尻込みしてしまう人にも受け入れられる作品となりました。もちろん、残酷なシーンが多いため子供には向きませんが、原作を知っている人もそうでない人も、多くの人がアリスを応援しながら楽しめる娯楽作品となったのです。
原作とかけ離れた映画を作る。こうした動きには、賛否両論がつきものです。しかし、原作と大きく異なる映画になったとしても、作品内に流れる原作への愛情やリスペクトといったものは読み取れます。
制作陣や俳優陣が抱く原作愛、より多くの人に見て欲しい・楽しんでほしいといった気持ち。これらが見事に重なり合った結果、ゾンビ映画としても、ゲームの映画化作品としても、人気の高い作品に仕上がったのではないでしょうか。

出典:Apple TV『バイオハザードV リトリビューション』より
まとめ
映画版『バイオハザード』シリーズは、原作であるゲーム版が持つサバイバルホラー的な恐怖や緊張感とは異なる方向へと大きく変化を遂げました。ゲーム版が「限られた資源で生き延びる恐怖」を軸にしているのに対し、映画版はアリスという超人的な主人公を中心に据え、アクション性と爽快感を前面に押し出したのです。
大きな方向性の変化に対し、原作ファンの意見は分かれています。しかし、この大胆な試みこそが、映画シリーズが多くの人に愛されるきっかけとなったことには違いありません。もし、原作通りの方向性で作品を作っていたら、本シリーズの成功はなかったことでしょう。事実、本シリーズのリブート版である『バイオハザード: ウェルカム・トゥ・ラクーンシティ』は商業的に苦戦しています。
独自の進化を遂げ、原作とは違う魅力を備えたミラ・ジョヴォヴィッチ主演の映画版。未見の人は最初から、見たことのある人は新しい気持ちで、ゲームの新作公開を待つお供として鑑賞してみてください。
(文:オオノギガリ)
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