Indiebase編集部です。 近年の映画界において、スタジオ「A24」の存在感は無視できないものとなっている。 『ミッドサマー』の祝祭的な恐怖、『ライトハウス』の閉塞した狂気、あるいは『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』の混沌としたマルチバース。
彼らの配給作品に共通するのは、単なる娯楽性ではない。鑑賞者の精神に爪を立てるような「居心地の悪さ(Uncanny)」と、そこから目を離せなくさせる圧倒的な「美学」だ。 そして、この”A24的なるもの”——既存のジャンル定義を拒絶するような作家性——は、現在のインディーゲームシーンとも強く共振している。
今回は、ジャンプスケア(驚かし)に頼らず、雰囲気と脚本、そしてシステムそのものでプレイヤーの精神を侵食する、「不穏で、奇妙で、美しい」インディーゲームを10本選出した。 映画のエンドロールを見送った後のような、重く、しかし心地よい余韻に浸りたい夜に。
1. Signalis
レトロテックが織りなす、コズミックホラーの到達点

- ジャンル: サバイバルホラー
『バイオハザード』や『サイレントヒル』といったクラシックなサバイバルホラーの文法を継承しつつ、それを極めて現代的なアートハウスの感性で再構築した一作。 全体主義的なディストピア、ブラウン管モニターの走査線、そしてドイツ語のタイポグラフィが織りなす「レトロテック」なビジュアルは、スクリーンショット一枚で見る者を魅了する強度を持つ。 愛する人を探すというシンプルな目的は、やがて現実と悪夢の境界が融解するコズミックホラーの深淵へと変貌していく。その難解なストーリーテリングは、考察好きの映画ファンの琴線に触れるはずだ。
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2. Immortality
映画の「編集」によって、銀幕の裏側を暴く

- ジャンル: インタラクティブ・ムービー
『Her Story』のサム・バーロウによる野心作。プレイヤーの目的は、3本の未公開映画を残して失踪した女優「マリッサ・マルセル」の謎を解くことだ。 本作のメカニクスは「マッチカット」にある。映像内の「ドアノブ」をクリックすれば、全く別の映画の「ドアノブ」のシーンへとジャンプする。この編集作業を繰り返すうち、プレイヤーは本来見るはずのなかった”撮影の裏側”や、フィルムに焼き付いた”魔物”を目撃することになる。 映画というメディアそのものを解体し、再構築する体験。デヴィッド・リンチ作品を好む層には必修科目と言える。
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3. Inscryption
メタフィクションの皮を被った、ジャンル越境の怪作

- ジャンル: デッキ構築ローグライク(?)
「カードゲーム」として紹介することすら躊躇われる、ネタバレ厳禁の怪作。 薄暗い小屋で、狂った老人とカードゲームをする。当初はそれだけのゲームに見えるが、席を立ち上がり小屋の中を探索し始めた瞬間から、物語は予想もしない方向へと暴走を始める。 ゲームというフォーマットを使ったサイコロジカルホラーであり、第四の壁を認識したメタフィクションでもある。不気味なVHS風の演出と、プレイヤーの予想を裏切り続ける展開は、まさにA24作品の不条理さに通じる。
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4. Kentucky Route Zero
魔術的リアリズムで描く、終わらない夜のロードムービー

- ジャンル: アドベンチャー
アメリカ・ケンタッキー州の地下に存在すると言われる謎のハイウェイ「ルート・ゼロ」。そこを旅する配達員と、彼が出会う奇妙な人々(あるいは幽霊たち)の群像劇。 ゲーム的なパズルや課題解決はほとんどない。あるのは、詩的なテキストと、舞台演劇を思わせる洗練された画面構成のみ。 借金、孤独、過去の亡霊といった重いテーマを扱いながらも、その手触りは静謐で美しい。ガブリエル・ガルシア=マルケスのような魔術的リアリズムを、現代のインタラクティブアートとして昇華させた傑作。
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5. Mundaun
全編「鉛筆描き」の狂気。アルプスに潜むフォークホラー

- ジャンル: ホラーアドベンチャー
スイスのアルプス地方を舞台にしたフォークホラー(土着ホラー)。 最大の特徴は、テクスチャの全てが開発者による「鉛筆の手描き」で作られている点だ。ざらついたモノクロームの映像は、古い記録映像のような不気味な実存感を放つ。 閉鎖的な村の因習、藁人形、そして悪魔との契約。『ウィッチ』や『ミッドサマー』が描いたような、牧歌的な風景の中に潜む根源的な恐怖を、圧倒的な作家性で描き出している。
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6. World of Horror (恐怖の世界)
1ビットで描かれる、コズミックホラーの螺旋

- ジャンル: ローグライクRPG
伊藤潤二のホラー漫画とH.P.ラヴクラフトの世界観を、1980年代のMacintosh(1ビット)風のグラフィックで融合させた怪作。 古き神々が目覚めつつある日本の港町・塩川町を舞台に、迫りくる「世界の破滅」を食い止めるべく調査を行う。 圧倒的なビジュアルインパクトと、理不尽なイベントの数々。「SAN値(正気度)」を削りながら怪異に立ち向かうプレイ感は、まさに悪夢の中を彷徨うような居心地の悪さを提供してくれる。
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7. Slay the Princess
「彼女を殺せ」と命じられる、ナラティブの迷宮

- ジャンル: ビジュアルノベル
「ここから先には地下室があり、中にはプリンセスがいる。世界を救うために彼女を殺せ」。そうナレーターに命じられるところから物語は始まる。 プレイヤーの選択によって、プリンセスの姿も、物語のジャンルさえも変容していく。彼女はか弱い被害者なのか、それとも世界を滅ぼす魔物なのか。 手描きの美しいアートワークと、フルボイスで語られるメタフィクション。物語の構造そのものを疑う体験は、映画的なサスペンスを好む層に強く刺さるだろう。
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8. Lorelei and the Laser Eyes
モノクロームの迷宮ホテルと、数字への偏愛

- ジャンル: パズルアドベンチャー
『Sayonara Wild Hearts』のSimogoが手掛けた、スタイリッシュ極まるミステリー。 舞台は中欧の古いホテル。プレイヤーは前衛的なアーティストの遺作展に参加するため、幾何学的なパズルが張り巡らされた迷宮を探索する。 モノクロ映像に赤が映える鮮烈な色彩設計、非線形なストーリーテリング、そして容赦のない難易度の謎解き。アラン・レネの『去年マリエンバートで』を彷彿とさせる、難解で美しい悪夢だ。
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9. Dredge
穏やかな海釣りの裏側に潜む、ラヴクラフトの影

- ジャンル: 漁業アドベンチャー
一見すると、のどかな漁業シミュレーションに見える。昼間は海に出て魚を獲り、金を稼ぎ、船を強化する。 しかし、夜になると海は姿を変える。霧の中から現れる幻覚、網にかかる異形の魚、正気を失っていく島民たち。 「生活(漁業)」というルーチンワークの中に、少しずつコズミックホラー(宇宙的恐怖)が浸透していく構成が見事。日常と異常の境界が波のように揺らぐ体験は、まさにA24的だ。
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10. Observer: System Redux
他人の脳へハッキングする、サイバーパンク・サイコホラー

- ジャンル: ホラーアドベンチャー
名優ルトガー・ハウアーが主演を務めた、サイバーパンクホラーの決定版。 舞台は2084年のクラクフ。刑事(オブザーバー)である主人公は、捜査のために容疑者の脳内へハッキングを行い、彼らの記憶や悪夢を追体験する。 グリッチノイズまみれの視覚表現と、他人のトラウマが物理的に襲いかかってくるような演出は圧巻。「精神への侵入」というタブーを描ききった本作は、SFスリラーとしての完成度が極めて高い。
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Indiebase編集部より
これらの作品は、必ずしも「爽快」で「楽しい」体験を約束するものではない。 むしろ、プレイ中には不安や混乱を感じることの方が多いかもしれない。
しかし、その「わからなさ」や「居心地の悪さ」こそが、インディーゲームというメディアが到達した芸術性の証左でもある。 安易なカタルシスを拒絶し、美学的な悪夢に浸りたいとき、これらのタイトルは最良のパートナーとなるはずだ。
(文:Indiebase編集部)
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本記事の画像引用について
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出典: Steam ストアページ
